2014/8/11 (配信日8/6)

世界最高速の連写カメラ

~ 1兆分の1秒以下の超高速で複雑な動的現象の可視化を実現 ~

発表者

  • 中川桂一(東京大学大学院理学系研究科/日本学術振興会特別研究員PD)
  • 佐久間一郎(東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻 教授)
  • 神成文彦(慶應義塾大学理工学部電子工学科 教授)
  • 合田圭介(東京大学大学院理学系研究科化学専攻 教授)

発表のポイント

  • 光を時間的・空間的に制御することで動画を撮影するという、既存の高速度カメラとは異なる動作原理に基づく超高速撮影システムを開発
  • 4.37兆分の1秒毎に画像を撮影する速度(フレームレート)にて、超高速な現象を一度の撮影で連続的に取得することに成功
  • 従来手法では観察することができなかった、ナノ秒以下の超高速複雑ダイナミクスという新しい分野を切り拓く強力なツールとして期待

発表概要

科学において高速撮影は動的現象を研究する極めて有用な手法です。しかしながら、既存の高速度カメラは機械的・電気的動作の限界から撮影速度がナノ秒に制限されており、ピコ秒やフェムト秒(注1)といった超高速な動的現象を捉えることが困難です(図1)。一方で、より高速な現象の疑似的動画を得る手法としてポンプ・プローブ法(注2)がありますが、この手法は動画をつくるために繰り返し撮影が必要であり、一度きりしか起こらない非反復的な現象を捉えられません。

今回、東京大学大学院理学系研究科/日本学術振興会の中川桂一特別研究員、同大学院工学系研究科の佐久間一郎教授、慶應義塾大学理工学部の神成文彦教授、東京大学大学院理学系研究科の合田圭介教授らは、様々な色の光を用いて動的現象の像を空間的にばらけさせ、そのあとで時間的に動画として再構成する(図2)という、既存の高速度カメラとは異なる動作原理に基づく超高速撮影法を提案し、実証しました。この手法はSequentially Timed All-optical Mapping Photography (STAMP)と呼ばれ、スタンプが押されるように、撮影対象の像が全光学的プロセスを通じて次々とイメージセンサーに入力され、取得されます(図3)。この原理を実証するため6枚の連続画を取得するシステムを立ち上げ、65.4 Gfps(注3、15.3ピコ秒に1フレーム)の撮影速度にてレーザーアブレーション(注4)を、1.23 Tfps および4.37 Tfps(それぞれ812フェムト秒、229フェムト秒に1フレーム)という撮影速度にてフォノン・ポラリトン(注5)の超高速な動的現象を一度の撮影(シングルショット)で連続的に取得すること(図4)に世界で初めて成功しました。

本手法は、従来手法では捉えることができなかったナノ秒以下の超高速で複雑な動的現象を、連続画としてシングルショットで可視化することができます。また、本手法は巨視的なものから微視的なものの観察まで幅広く適用することが可能です。具体的には、生体組織・細胞での衝撃波伝播過程の解析、化学反応、プラズマ現象、物質中の電子や熱の移動、スピン波や光の伝播などさまざまな超高速現象を観察できる可能性を持ち、基礎科学研究において今後、多くの未知の現象の発見や解明に貢献することが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Photonics」(オンライン掲載2014年8月10日)に発表されます。

発表内容

図1

図1:異なる時間スケールでの動的現象。既存の高速度カメラは機械的・電気的動作の限界から撮影速度がナノ秒に制限されていた。これに対しSTAMPカメラはこれまで捉えることができなかったナノ秒以下の領域を捉えられる。本手法はナノ秒以下の超高速で複雑な動的現象を探索し、新しい分野を切り拓くことが期待される。

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図2

図2:STAMPカメラの撮影原理。通常のカメラは動的現象と同程度またはそれ以上の速度で動くデバイスを用いて撮影を行う。STAMPカメラでは、超高速で展開している動的現象をそのように直接的に時間領域で取得するのではなく、異なる物理パラメーター(図では光の色)を持つ観察光を用いて像を空間領域に射影する。どの時間がどの波長に対応しているのか、どの空間がどの波長に対応しているのかわかるため、空間領域で取得された像から時間領域でのふるまいを、波長を介して再構成することができる。このように時間領域で圧縮された情報を空間領域に展開することで、高速に動作するデバイスの必要がなくなる。この原理はX線、赤外線、テラヘルツ波や電子線などによる他の撮像法にも用いることができる。

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図3

図3:STAMPカメラの構成。超短パルスが時間写像装置にて時間的に引き伸ばされ、波形整形されてSTAMP照明光へと分けられる。STAMP照明光では、時間と波長が一対一に対応しており、左上挿入図のようにパルス間隔とパルス幅が既存のビデオカメラのフレーム間隔と露光時間にそれぞれ対応する。STAMP照明光は撮影対象に次々に照射され、その時その時の像情報を取得する(スタンプが彫られる)。その後、空間写像装置にて光学的かつ受動的に異なる空間へと分割され、露光状態に保たれたイメージセンサーへと入力される(スタンプが押される)。時間と波長、波長と空間の対応関係はあらかじめ知ることができるため、取得した画像から動画を再構成することが可能である。
Adapted by permission from Macmillan Publishers Ltd: Nature Photonics 10.1038/nphoton.2014.163, copyright 2014

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図3

図4:フォノン・ポラリトンの形成と伝播の様子。水平方向に超短パルスレーザーを線集光し、フォノンパルスを発生させた。(上)線集光されたレーザー光が複雑な電子応答と格子振動を誘起し、次第にフォノンパルスが形成される様子。(下)パルスが画像下方から上方へ光速の約6分の1という速度で伝わっていく様子。上下の撮影結果はともに平均フレームレート4.37 Tfps(4.37兆分の1秒毎に1フレーム)で画像を取得したもの。
Adapted by permission from Macmillan Publishers Ltd: Nature Photonics 10.1038/nphoton.2014.163, copyright 2014

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1) 研究の背景と目的

科学において観察は極めて基本的な行為ですが、観察の精度を決める重要なものが、空間分解能と時間分解能です。空間分解能に関しては、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などにより原子の大きさを捉えられる程度のものが得られています。一方で時間分解能に関しては、現在アト秒(10-18秒)が測定できる程度の光パルスが得られているにもかかわらず、既存の高速度カメラではナノ秒(10-9秒)が測定できる程度のものしか得られていません(図1)。高速度カメラは機械的動作による慣性力や、電気的動作によるデータ転送速度制限・熱の発生など多くの技術的問題を抱えており、動作速度が頭打ちの状態を迎えています。一方で、より高速な現象の疑似的動画を得る手法としてポンプ・プローブ法が用いられています。しかしながら、この手法は動画をつくるために繰り返し撮影が必要であり、一度きりしか起こらない非反復的な現象を捉えることが原理的に不可能でした。

このように、ナノ秒以下で起きる超高速な動的現象(ダイナミクス)を一度の撮影で連続的に取得可能な2D・3Dイメージング手法は存在していません。そのためピコ秒・フェムト秒という超高速な時間で生じる複雑ダイナミクスを捉える新しいカメラが強く望まれていました。

2) 研究内容と成果

今回、東京大学大学院理学系研究科/日本学術振興会の中川桂一特別研究員、同大学院工学系研究科の佐久間一郎教授、慶應義塾大学理工学部の神成文彦教授、東京大学大学院理学系研究科の合田圭介教授らは、光を周波数領域で制御し、時間領域のダイナミクスを空間領域に射影することで動画を撮影する(図2)という、既存の高速度カメラとは異なる動作原理に基づく超高速撮影法を提案しました。Sequentially Timed All-optical Mapping Photography (STAMP)と呼ばれる新技術は、これまで百年以上にわたって行われてきた高速撮影技術開発における「デバイスの動作をより速く」という取り組みに対し、「最も速い(短い)光をより遅く」という逆のアイデアに基づいています。STAMPカメラでは、従来法の撮影速度を制限していた技術的要因を一切排除することで、これまで撮影できなかったナノ秒以下のダイナミクスを捉えられるようになりました。

原理を実証するために6枚の連続画を取得するシステムを立ち上げました(図3)。次のような順序で動的現象は撮影されます。まず、超短パルス光源から発せられた広帯域の超短パルス光が、時間写像装置にて波長に応じて時間的に引き伸ばされ、波形が整えられます。それぞれのパルス列(STAMP照明光)は観察対象に次々に照射され、像情報を取得してゆきます。これら像情報を有したSTAMP照明光が、空間写像装置にて今度は波長に応じて空間的に分離されます。この空間写像装置のため、高波長分解能・高透過効率・リアルタイム性を有する新しいマルチスペクトラルイメージング法(注6)も合わせて開発することで、多フレームかつ良好な画質を実現することができました。像情報を失うことなく空間的に分離されたSTAMP照明光は、露光状態に保たれたイメージセンサーのそれぞれ異なる位置に入力されます。このとき、どの時間がどの波長に対応しているのか、どの空間がどの波長に対応しているのかわかるため、波長を介してそれぞれの空間に飛び込んだ画像がどの時間に対応するのか知ることができます。これらの情報から、取得した画像を動画として再構成することで、完全なシングルショットでの超高速撮影が実現されます。STAMPカメラは連続撮影の可能な高速度カメラであり、通常のビデオカメラのように何千枚・何万枚といったフレーム数を得ることは困難ではありますが、代わりに極めて高いフレームレートで超高速ダイナミクスを観察することが可能です。また、極めて低い光エネルギーで撮影を行うため、観察が対象に与える影響を大幅に低減できます。

本撮影システムを用いて、まずガラスでのフェムト秒レーザーアブレーションの初期過程をピコ秒の時間スケールにて観察しました。撮影では、光のエネルギーが急激にガラス表面に加えられ、プラズマ状態のプルームが成長していく様子が65.4 Gfps(15.3ピコ秒に1フレーム)という撮影速度にて捉えられました。続いて、結晶中のフォノン・ポラリトンのダイナミクスをフェムト秒の時間スケールにて観察しました。撮影では、線集光されたレーザー光が複雑な電子応答と格子振動を誘起し、次第にフォノンパルスが形成される様子が1.23 Tfps および4.37 Tfps(それぞれ812フェムト秒、229フェムト秒に1フレーム)という撮影速度にて捉えられました。また、そのパルスが光速の約6分の1という速度で伝わっていく様子を微視的な視野で観察しました(図4)。これらの超高速ダイナミクスを一度の撮影で連続的に捉えたのは世界で初めてのことです。本撮影システムは超高速の撮影に適しており、4.37 Tfpsより速いフレームレートも容易に実現できます。また、今回は原理を実証するために6フレームを撮影するシステムを構築しましたが、空間写像装置の改良によりもっと多くの枚数を取得することが可能です。同様に画面解像度も使用しているイメージセンサーの最適化により更に向上させることができます。

3) 今後の展開

本研究で開発されたSTAMPカメラでは電気的・機械的な動作による制限を排除することで、従来の高速度カメラで取得できないナノ秒以下の複雑ダイナミクスを、連続画としてシングルショットで撮影を行うことができます。今回は原理を実証するために簡易なシステムを立ち上げましたが、構成を最適化することでより優れた性能を有する撮影システムを実現することが可能です。加えて、放射光や加速器など、まだ安定性が十分ではない光源を用いた観察においても、本原理によるシングルショット撮影は大きな効力を発揮すると考えられ、これらの特殊な光源を用いた新しい分野を創出することが期待されます。

この超高速撮像法により、従来技術では観察できなかった未開拓の領域を観察することができます。これは例えば、生体組織・細胞での衝撃波伝播過程の解析、確率的に生じる量子効果の直接的可視化による調査や、新規マテリアルの発見へ向けた極限状態での物質の複雑非平衡ダイナミクスの観察などに貢献することが期待されます。このようにSTAMPカメラは分野を問わず多くの領域にて先端的基礎研究を支える強力なツールとして貢献してゆくものと期待されます。

本研究は、文部科学省「先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム」課題名:システム疾患生命科学による先端医療技術開発、日本学術振興会特別研究員DC1研究奨励費(23-8852)、文部科学省「光・量子科学研究拠点形成に向けた基盤技術開発」、Burroughs Wellcome Foundationの支援のもとに行われました。

発表雑誌

雑誌名
「Nature Photonics」2014年8月10日(英国時間)
論文タイトル
Sequentially timed all-optical mapping photography (STAMP)
著者
Keiichi Nakagawa, Atsushi Iwasaki, Yu Oishi, Ryoichi Horisaki, Akira Tsukamoto, Aoi Nakamura, Kenichi Hirosawa, Hongen Liao, Takashi Ushida, Keisuke Goda, Fumihiko Kannari & Ichiro Sakuma
DOI
10.1038/nphoton.2014.163

用語解説

注1 ピコ秒、フェムト秒
1秒からそれぞれ1000分の1きざみで、ミリ秒(10-3 秒)、マイクロ秒(10-6 秒)、ナノ秒(10-9 秒)。ピコ秒(10-12 秒)、フェムト秒(10-15 秒)である。1ピコ秒は1兆分の1秒であり、1秒で地球を7周半する光がわずか0.3 mmしか進まない時間である。
注2 ポンプ・プローブ法
撮影の条件を少しずつ変えながら繰り返し撮影を行い、それぞれ取得されたデータを再構成して疑似的に動画を得る方法。たとえば、時間遅延を少しずつ変えながら2次元のスナップショット撮影を繰り返して連続画を得る方法や、視野を少しずつ変えながら1次元のストリーク撮影(スリットを通った光をずらしながら撮ることで、空間1次元・時間1次元の情報を得る撮影法)を繰り返して2次元動画像を得る方法などがある。これらは動画をつくるために複数回の撮影が必要であり、一度きりしか起こらない非反復的な現象を捉えることができない。
注3 フレームレート
動画において、1秒あたりに含まれているフレーム数。fps (frames per second)という単位で表す。フレームレートの逆数がフレーム間隔。
注4 レーザーアブレーション
高強度のレーザーを対象に照射することで、表面の物質が飛散する高速度現象。レーザーのパラメーターや材料表面の状態、照射環境などにより様子が変化する。
注5 フォノン・ポラリトン
結晶の格子振動(フォノン)と電磁波(フォトン)が結合したもの。
注6 マルチスペクトラルイメージング法
撮影対象全体の色情報(スペクトル)を取得するイメージング法。これまでに複数の手法が提案されているが、画質が劣化する、波長分解能が低い、機械的な走査を行うためリアルタイムで像を取得できない、などの問題点があった。