2014/6/19 (配信日6/16)

東京大学アタカマ1m望遠鏡、木星の衛星イオで太陽系最大級の火山活動をとらえる

発表者

  • 吉井 讓 (東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター センター長)
  • 宮田 隆志(東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター 准教授)
  • 米田 瑞生(東北大学大学院理学研究科研究員・ハワイ大学天文学研究所客員研究員)
  • 加藤 夏子(東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター 技術職員)
  • ほか

発表のポイント

  • 東京大学アタカマ天文台(チリ)のminiTAO1m望遠鏡を用いた中間赤外線モニタ観測で、木星の衛星イオにあるダイダロス火山の活動の様子をとらえることに成功した。
  • ダイダロス火山からの放射は10兆ワットにも上ることが示唆され、この火山が活動期には非常に活発な火山であることを示唆する結果が得られた。
  • 地上の中間赤外線望遠鏡で太陽系内天体の活動性が捉えられることを実証し、従来主流であった大型望遠鏡や探査機による惑星観測に新しい手法を適用した点で重要な成果である。

発表概要

イオ(Io)は木星の周りを回る四大衛星のひとつであり、太陽系でもっとも火山活動が活発な天体である(図1)。火山活動の詳細を知るためには火山活動を監視するモニタ観測を継続的に行うことが必須であるが、これまでの近赤外線(波長2-5ミクロンの電磁波)を利用した観測は太陽の反射光による影響が大きく、十分な観測の障害となっていた。

東京大学大学院理学系研究科の吉井讓教授、宮田隆志准教授と東北大学大学院理学研究科の米田瑞生研究員らの研究グループは、東京大学がチリのアタカマに設置した東京大学アタカマ天文台1m望遠鏡を用いてイオのモニタ観測を行った(図2)。観測波長は太陽の反射光の影響を受けにくく、火山活動を直接検知するのに有利な中間赤外線波長(波長8.9ミクロン)を利用した。中間赤外線は地球大気の水蒸気によって強く吸収されるため通常の望遠鏡では観測が難しいが、東京大学アタカマ天文台は標高が世界でもっとも高い天文台であり、中間赤外線の安定した観測が可能である。この特性を活かし、2年間の断続的なモニタ観測を実施し、2011年にイオの火山のひとつダイダロス火山が活発に活動していたことを突き止めた。総放射エネルギーは10兆ワットと推定され、太陽系でも最大級の火山活動であることが推定される(地球の総地熱エネルギー(注1)が40兆ワット)。

これほど小型の地上に設置された光学観測装置でイオの火山活動が観測されたのは初めてのことであり、惑星観測研究の新しい手法を確立したという意味でも重要な成果である。

発表内容

図1

図1:ボイジャー探査機で撮影されたイオの火山性噴出 (Image credit: NASA/JPL/USGS)。

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図2

図2:今回観測を行った標高5640mの東京大学アタカマ天文台(左)と、中間赤外線カメラMAX38を搭載したminiTAO望遠鏡(右)

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(1) 研究の背景

イオ(Io)は木星の第一衛星であり、ガリレオ・ガリレイが発見したガリレオ衛星のひとつである。火山活動が確認された地球以外の最初の天体であり、かつ太陽系内でもっとも火山活動が活発な天体でもある。イオの火山活動は木星で見られるオーロラ活動などとも関連することが示唆されており、その活動性を明らかにすることは木星圏全体を理解する上でも重要である。火山のような突発現象の活動性の監視には継続的なモニタ観測が必須となる。イオの火山性赤外線放射は、近赤外線波長(波長2-5ミクロン)において顕著に見られるが、この波長帯では太陽の反射光による影響を大きく受ける。従来の観測では、太陽の反射光とイオ火山からの赤外線を見分けるため、世界でもトップクラスの大型望遠鏡や、無人探査機が用いられてきた。しかしこれらの大掛かりな設備をイオの観測のために継続的に利用するのは困難であり、観測的な研究は未発達の段階にある。

(2) 研究内容

イオの火山活動を見るには、波長5-20ミクロンの中間赤外線波長での観測が有効である。この波長では太陽光が相対的に弱くなるため、反射光の影響はほとんど無視でき、火山の高温部からの熱放射を直接見ることが可能になるからである。しかし中間赤外線は地球大気の水蒸気によって強く吸収されるため、その観測は容易ではない。地上の大型望遠鏡や衛星望遠鏡などの中には中間赤外線を観測可能なものもあるが、観測時間が限られており、長期間にわたるモニタ観測を行うことは運用上きわめて難しい。

東京大学大学院理学系研究科の吉井教授、宮田准教授と東北大学大学院理学研究科の米田研究員らの研究グループは、大がかりな設備を用いることなく波長8.9ミクロンの中間赤外線を利用して長期間にわたるイオのモニタ観測に成功した。この観測には東京大学アタカマ天文台のminiTAO 1m望遠鏡を用いた。この望遠鏡は世界でもっとも高い場所で運用されている赤外線望遠鏡であり、大気水蒸気量が非常に低いことから中間赤外線観測に最も適した地上に設置された望遠鏡のひとつである。

イオの観測は2011年10月から2012年10月まで断続的に18回行われた。イオは地球から遠く離れているため、1m望遠鏡では衛星全体が点としか写らず、その構造を画像として直接見ることはできない。しかしながら、イオは木星の周りを約1.7日周期で自転している。イオのある場所に活発な火山活動があれば、地球から見るイオの明るさは、灯台のように周期的に変化する。この変化を利用してさまざまな時間でイオを観測すれば、イオ上のどの場所(経度)が明るいかが分かり、イオのどの火山が活動しているかを明らかにできる。

(3) 研究結果

2011年の観測では経度280度付近が明るくなっているが、2012年の観測ではこのような兆候は見えない(図3、図4)。この経度にはイオの中でも比較的活発なダイダロス火山があることが知られており、明るくなった原因は2011年度に起きたダイダロス火山の活動に伴うものだと示唆される。ここからの放射強度は総計で10兆ワットに上ると推定される。これは2000年有珠山の噴火時の放射エネルギーの約1万倍に相当し、太陽系最大級の噴火であったことが示唆される。このことから、ダイダロス火山が頻度は低いものの大規模な火山活動を示すことが明らかとなった。

(4) 社会的意義と今後の予定

イオの火山活動は木星で見られるオーロラ現象などとも関係しており、今回の結果は、木星を取り巻く磁気圏の理解を進める上で重要な成果である。また遠く離れた星での火山活動を中間赤外線モニタ観測によって明らかにできたことは、ほかの惑星を含めた太陽系内天体の観測の手段を新たに実証したという点で意義深い。さらにこれが人工衛星や無人探査機などの巨大計画ではなく地上の望遠鏡でなされたことは、今後同種の観測を行える可能性が広がったことを意味しており、観測手段の発展という観点からも重要な成果である。

東京大学では本研究で用いた1m望遠鏡のある場所と同じ東京大学アタカマ天文台に、口径6.5mの赤外線望遠鏡を建設する計画を推進している。この6.5m望遠鏡を用いれば、中間赤外線の感度は40倍、空間解像度は6倍向上できる。これを用い、イオをはじめとする太陽系内の天体や太陽系外天体のモニタ観測も推進し、ユニークな観測研究を進めていく。

発表雑誌

雑誌名
「Icarus」(Vol. 236, pp 153-156, 2014年7月1日発行予定)
論文タイトル
Mid-infrared observations of Io's volcanism from the ground in 2011 and 2012
著者
M. Yoneda, T. Miyata, C.C.C. Tsang, S. Sako, T. Kamizuka, T. Nakamura, T. Asano, M. Uchiyama, K. Okada, Y. Hayashi, Y. Yoshii, M. Kagitani, T. Sakanoi, Y. Kasaba, S. Okano
DOI
http://dx.doi.org/10.1016/j.icarus.2014.01.019
アブストラクトURL
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0019103514000505

図3:イオからの火山性の中間赤外線放射の強度と観測時のイオの中心経度。2011年には、経度280度付近に顕著なピークが見られる。これは、この領域に活発な火山活動があったことを意味する。

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図4:東京大学アタカマ天文台1m望遠鏡で得られたイオの画像。小型の望遠鏡であるため、イオのそれぞれの火山を見分けることはできない。しかし、イオが明るく観測されるイオの経度より、どの火山が活発であるか、推定することができる。経度280度にある火山ダイダロスのため、277度で得られたイオの画像が明るい。

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用語解説

注1 総地熱エネルギーと総放射エネルギー
地球形成時の余熱や、核物質の崩壊熱により、地球中心部は熱を持っている。この熱エネルギーは、40兆ワット余りである。地熱エネルギーが、地震・火山・プレート移動など、様々な地殻現象に消費されている。イオの地熱エネルギーは、木星や他のガリレオ衛星の重量でイオが強力な変形を受けることで生じているとされている。放射エネルギーは、赤外線に代表される電磁波として火山性の高温部から発せられるエネルギーである。