2014/5/15 (配信日5/14)

天の川のフレア領域に存在する恒星を世界で初めて発見

~ 銀河系外縁部の暗黒物質を探る新たな目印 ~

発表者

  • 松永典之(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 助教)
  • Michael W. Feast(南アフリカ・ケープタウン大学 名誉教授)
  • John W. Menzies(南アフリカ・南アフリカ天文台 アストロノマー)
  • Patricia A. Whitelock(南アフリカ・南アフリカ天文台 主任アストロノマー)

発表のポイント

  • 天の川の外側部分がふくれ上がった領域(フレア領域)に存在する恒星(セファイド変光星)を5つ発見しました。
  • これまでフレア領域に存在する恒星は確認されていませんでしたが、距離がわかるというセファイド変光星の性質を利用して、その位置を明らかにしました。
  • そのような領域での恒星の分布と運動は暗黒物質の存在に影響されるため、天の川の外縁部にある暗黒物質の調査に役立つと期待されます。

発表概要

太陽系が存在する銀河系では、天の川と呼ばれる円盤状の領域にほとんどの恒星や星間ガス(注1)が集まっています。これまで、星間ガスの観測から円盤の外側がふくれ上がるフレアと呼ばれる構造が知られていましたが、そこに恒星が存在するかどうかやその分布についてはわかっていませんでした。

今回、東京大学の松永典之助教と南アフリカ・ケープタウン大学のマイケル・フィースト名誉教授らの研究チームは、フレア領域に存在している恒星を世界で初めて発見しました。発見した5つの恒星は、セファイド変光星(注2)という種類の天体で、宇宙の中で距離を測定するためにさかんに用いられる「宇宙の灯台」とも呼ばれるものです。これらの天体は、いて座あるいはへびつかい座の方向に太陽系から6~10万光年の距離に位置しています。いずれも天の川と呼ばれる円盤状の領域からは3千光年以上離れており、これまでに知られていたセファイド変光星が高さ1千光年以内の円盤領域に集中している点で大きく異なります(図1)。

天の川がふくれ上がる様子(フレア)は、銀河系の外側の暗黒物質の分布によって決まると考えられており、今後これらの天体や同じような場所にある恒星を詳しく調べることで直接観測することが不可能な暗黒物質の分布に迫ることができると期待されます。

発表内容

図1

図1:今回発見した5つのセファイド変光星(左側)とこれまでに知られていた同種の天体の位置を比較した概念図。銀河系円盤を横から見たところで、右側のオレンジ色の点が太陽系。新しいセファイド変光星は、銀河系の中心(図の中央でより明るくなっているところ)よりも向こう側で円盤から離れたフレア領域に存在している。 (Credit: R. M. Catchpole (IoA Cambridge) and NASA/JPL-Caltech.)

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図2

図2:発見したセファイド変光星のひとつ。IRSF望遠鏡で得た赤外線画像(左、距離の測定に利用)とSALT望遠鏡で得たスペクトル(右、運動の測定に利用)。 (Credit: Feast, Menzies, Matsunaga & Whitelock)

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研究の背景:天の川のフレアと未解明の恒星分布

私たちの太陽系を含む数千億個の恒星をもつ銀河系の中で、ほとんどの恒星と星間物質(注1)は天の川(または銀河系円盤)と呼ばれる円盤状の領域に存在しています。それらの恒星・星間物質は直径約15万光年の円盤の中を秒速200キロメートル程度の速さで回転しています。太陽系も円盤の中に位置し、私たちが夜空を見上げた時に周囲の恒星の多い円盤の方角に星の集まった帯が観測されます。これが天の川正体です。円盤の厚みは、太陽系のある場所(中心から約2万5千光年)では1千光年程度です。一方、星間ガスの観測に基づく研究から、円盤の外側に行くと厚みが増大し、中心から5万光年のところでは3千光年程度の厚みになっていると考えられていました。このように円盤が外側でふくれ上がる様子をフレアと呼んでいます。しかしながら、フレアが起こり、ガスが広がって存在している場所に恒星があるかどうかは、これまでわかっていませんでした。

天文学において、星間物質と恒星とは、それを調べるための観測手段もその観測からわかることもかなり異なっています。星間ガスは主に電波で観測し、銀河系円盤部の広い領域に存在するガスの研究がさかんに行われています。ほぼ全ての星間ガスが円盤中で回転しているため、この回転運動の様子を仮定するモデルを利用すれば、運動の様子から逆にガスの分布がわかります。ただし、ガスまでの距離を回転運動と独立に求めることが難しいことには注意が必要です。一方、恒星は可視光や赤外線で観測することが多く、恒星の多くが円盤中に分布しているものの、それを取り巻くさらに広い範囲に散らばっている恒星のグループも存在します。また、円盤の中でも恒星の年齢などにより、星間ガスと同じように回転しているものやもっとばらばらな運動が目立つものなど多様な恒星のグループが存在しています。これらの多様性により、星間ガスと同じように分布を調べる方法を使うことは難しく、それ以外の方法でも1つ1つの恒星までの距離を求めることは大変困難な作業です。このため、恒星およびガスの密度が小さく、いろいろな恒星のグループが混在している円盤の外縁部においては、恒星の分布を調べることは特に難しく、星間ガスで調べられていたフレア領域に恒星が存在するかどうかわかっていませんでした。

本研究の成果:フレア領域にあるセファイドの変光星の発見

そこで、今回東京大学の松永典之助教と南アフリカ・ケープタウン大学のマイケル・フィースト名誉教授らの研究チームはセファイド変光星(注2)と呼ばれる恒星に着目しました。セファイド変光星は数日から数十日の周期で明るくなったり暗くなったりを繰り返す星で、その周期性から各天体までの距離を測定できる特殊な天体です。この性質により、円盤の回転運動とは無関係に銀河系中での位置を求めることができます。今回研究を行った5つのセファイド変光星は、研究チームの測定により距離が6~10万光年と大きく、さらに円盤からの高さが約3千光年以上と星間ガスによって予想されていたフレア領域に位置することがわかりました。これだけであれば、たまたまその位置にある円盤とは関係のないグループの星である可能性もありますが、同時に研究チームが行った運動の測定(注3)により、ガスと同じように回転運動をしていることがわかりました。これによって、初めてフレア領域に存在している恒星であることが確認できたのです。

なお、今回発見した5つの天体は、2012年にポーランド・ワルシャワ大の天文学者たちが発表した研究により、セファイド変光星として報告されていた32個の天体に含まれるものです。彼らの研究では、ある方向にセファイド変光星が存在しているという点のみが報告されており、セファイド変光星の距離や運動などがよくわかっていませんでした。しかし、今回の研究によりフレア領域にあるセファイド変光星であることがわかったため、フレア領域で恒星を「発見」したものとしています。フレア領域に存在する恒星の距離と運動の測定は、南アフリカ共和国の南ア天文台(SAAO)にあるIRSF望遠鏡(注4)とSALT望遠鏡(注5)を用いて行いました(図2)。

本研究の意義・今後期待される発展:銀河系外縁部の暗黒物質の調査への応用

フレア領域に恒星が見つかったことで、銀河系の特に外側に存在する物質の分布を探る新たな手がかりが得られました。これは、恒星や星間ガスの運動が、以下に説明するようにそこにある物質から受ける重力に支配されているためです。

まず、円盤中の回転運動は安定しています。これは、円盤の中心に向かって落ちようとする重力と回転による遠心力がつりあっているからです。一方、円盤とは垂直な方向の運動を考えると、円盤から飛び出そうとする星の運動を円盤部に集まっている恒星自身や星間ガスの重力が引き戻すことで円盤が保たれています。しかし、恒星や星間ガスの密度が小さくなる円盤の外縁部ではその重力が弱くなって、円盤から離れたところまで恒星が動いていくことができます。これが、円盤の外側でフレアが生じる理由だと考えられています。一方、恒星や星間ガスとは全く異なる分布をもち、銀河系のずっと外側まで広がっている重力源が存在し、これが暗黒物質(注6)と呼ばれるものです。フレア領域のように恒星・星間ガスの密度が低い銀河系外縁部では暗黒物質が、そこで運動する天体に大きな影響を及ぼしています。そこで、今回見つかったセファイド変光星がどのように運動しているか詳しく調べることで、暗黒物質がどれだけ存在しているかを研究できる可能性が高まります。また、今回見つかった5つの天体は、同じようにフレア領域に分布するセファイド変光星のうちの氷山の一角に過ぎない可能性が高く、今後さらに多くのセファイド変光星が見つかれば、これらの天体が暗黒物質探査の新たな目印になるものと期待されます。

発表雑誌

雑誌名
「Nature」 電子版5月15日 
論文タイトル
Cepheid variables in the flared outer disk of our galaxy
著者
Michael W. Feast, John W. Menzies, Noriyuki Matsunaga & Patricia A. Whitelock
DOI番号
10.1038/nature13246 

用語解説

注1 星間ガス、星間物質
物質が球状に集まって孤立している恒星に対して、それらの間に存在する物質を星間物質と呼びます。それらは、気体(ガス)または固体(ダスト)に分かれますが、99%以上の星間物質はガスとして存在しています。ほとんどの星間物質は天の川(銀河系円盤)に集中して存在しており、そこで新しい星を作る材料となっています。
注2 セファイド変光星
セファイド変光星おおよそ2~50日の周期で明るくなったり暗くなったりを繰り返す星で、それぞれのセファイド変光星によって周期が異なっています。周期と星の固有の明るさには関係(周期光度関係)があり、これによってセファイド変光星までの距離を求めることができます。この関係は宇宙における距離の測定を行うための基本的な道具となり、1929年にエドウィン・ハッブルが宇宙の膨張を発見した時にも利用されたものです。現在も、広い範囲で宇宙の距離測定を行うための重要なステップとして盛んに研究が行われています。
注3 恒星の運動の測定
恒星の運動は、視線方向とそれに垂直な方向とでまったく異なる測定方法が用いられます。視線方向の速度は、分光観測により得られるスペクトルが運動していないときに期待されるものからどれだけ波長方向にずれているかというドップラー効果を用いて、精度よく測定することが可能です。今回、研究チームが5つのセファイド変光星についてSALT望遠鏡(注5)での分光観測により調べたのは、この視線速度です。一方、視線方向と垂直な方向の運動は固有運動と呼ばれ、多くの場合測定が難しく、5つの天体についても得られていません。
注4 IRSF望遠鏡(Infrared Survey Facility) http://www.z.phys.nagoya-u.ac.jp/~irsf/
名古屋大学が、2000年に南アフリカ天文台サザーランド観測所に建設した口径1.4mの望遠鏡です。SIRIUSという近赤外線カメラが取り付けられており、近赤外線で3つの異なる波長(1.25 μm[マイクロメートル]、1.63 μm、2.14 μm)を同時に観測できます。
注5 SALT望遠鏡(Southern Large Astronomical Telescope) http://www.salt.ac.za
IRSF望遠鏡が設置されているサザーランド観測所に、南アフリカ天文台が欧米各国と共同で建設した口径約10mの望遠鏡。2000年に建設が開始され、2005年から観測を行っています。南半球ではもっとも大きな可視光・赤外線望遠鏡です。
注6 暗黒物質
ガスなどとの相互作用で光を出すことがなく、観測で直接見ることができない物質です。その質量によって恒星や銀河、銀河団などの運動に影響を及ぼす様子から、間接的にその存在や分布が調べられています。水素やヘリウムなどの通常の物質よりも5倍以上多く宇宙に存在すると考えられていますが、その正体はまだわかっていません。