2014/4/11 (配信日3/28)

スーパーコンピューター「京」を用いて世界最高解像度で太陽の対流層計算を達成

発表者

  • 堀田英之 (日本学術振興会 海外特別研究員/High Altitude Observatory)
  • 横山央明 (東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 准教授)
*2014年3月東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 博士課程修了

発表のポイント

  • スーパーコンピューター「京」を用いて、世界最高解像度(従来の6倍以上の解像度)の太陽の熱対流計算を実現し、太陽内部の熱対流・磁場生成の構造の詳細をあきらかにした。
  • 高解像度化なシミュレーション計算を実現するために新たな手法を開発した。
  • 今回の研究により可能になった高解像度化は、黒点生成の機構の解明や太陽活動変動の予測に貢献するものと期待される。

発表概要

太陽対流層(注1)は、その中心部で核融合により発生したエネルギーを輸送するために乱流(注2)的な熱対流(注3)によって埋め尽くされている。この乱流を数値シミュレーションにより再現することは、差動回転(注4)といった大規模な流れ場や磁場の生成を理解するために重要である。しかし、太陽の大きさを考えると、小規模の乱流を数値計算によって再現することは多くの格子点を要するために難解な問題である。大規模化したスーパーコンピューターであっても、これまで使用されていた「アネラスティック近似」というこれまでの手法では、2008年時点での太陽の熱対流を計算した結果が世界最高であるという足踏み状態であった。

東京大学大学院理学系研究科の堀田英之 博士課程大学院生(4月より日本学術振興会海外特別研究員へ異動)、横山央明 准教授とアメリカ合衆国High Altitude Observatory(高高度観測所)のMatthias Rempel 研究員の研究グループは、独自の新しい数値計算法「音速抑制法」を用いた効率の良い計算コードプログラムと理化学研究所のスーパーコンピューター「京」により、太陽の熱対流計算を世界最高解像度(従来の6倍以上の解像度)で達成した(添付資料のウェブサイトにある動画参照)。この計算により得られた太陽内部の熱対流と磁場生成のモデリングにより、対流層の底が磁場生成に最適の場所であることを明らかにした。

今後は、実際の太陽と比較し太陽の自転もとりいれつつ計算を進めることで、大規模流れ・黒点(注5)磁場生成機構の解明が可能になると期待される。本研究は太陽活動11年周期(注6)の謎の解明や太陽活動の変動の予測について世界で最も優れた方法を提案したものである。

発表内容

太陽の対流層は、太陽中心部で核融合により発生したエネルギーを輸送するために乱流的な熱対流によって埋め尽くされている。この乱流は、差動回転といった大規模な流れ場や磁場の生成を理解するために重要である。しかし、太陽の対流層を数値計算によってシミュレーションするときにしばしば問題になるのが、音速の速さである。数値計算では、もっとも速い波、もしくは流れを追うことができるように時間幅を決めなければいけない、つまり速い波や流れには小さな時間幅をとらなければいけない。太陽の対流層の底では、熱対流(50 m/s)に対して、速い音速(200 km/s)なので非常に小さい時間幅をとる必要がある。その上で、熱対流を追うような長時間の積分をするためには膨大な回数の数値積分が必要となり現実的ではない。そこで音波の速度を無限大と仮定し、その伝搬を無視するアネラスティック近似という手法を用いて、これまで太陽の熱対流をシミュレーションする研究は行われてきた。しかし、この手法では、「高解像度化が困難」「太陽の活動を理解するのに重要な表面付近の領域を取り入れられない」という欠点があった。アネラスティック近似は、音速を無限大と仮定しているがゆえに計算の情報をすべてのCPUに一瞬で伝搬し、すべてのCPUが情報を共有しなければならず、大規模計算ではその通信が高負荷となる。また、通常の3次元の数値計算では、一方の方向の解像度をn倍にすると、その負荷がn4倍になることが知られているが、アネラスティック近似を用いている多くの計算ではn5倍になる。このためスーパーコンピューター「京」のような大規模計算機であっても太陽の対流層を計算しづらい問題があり、スーパーコンピューターの不断の進歩にも関わらず2008年時の計算が現在でも世界最高解像度であった。

そこで東京大学大学院理学系研究科の堀田英之 博士課程大学院生(日本学術振興会海外特別研究員へ異動)、横山央明 准教授とアメリカ合衆国High Altitude Observatory(高高度観測所)のMatthias Rempel 研究員の研究グループは新しく提案した「音速抑制法」という手法を用いて、太陽対流層の数値計算をおこなった。この方法は、実効的な音速を下げて時間幅を大きくとるようにする手法である。また、アネラスティック近似では取り入れられなかった表面付近領域も、物理を損なうことなく取り入れることが可能である。この手法は、大規模計算機での通信も少なく、計算コストも低い特性があり、昨今の大規模計算機を使う上で有利である。本研究では、この手法とスーパーコンピューター「京」を用いて太陽の対流層を計算した。その結果、これまでは太陽の対流層全体を5億点ほどで分解するのが限界であったが、研究グループは32億点ほどで分解することに成功し、世界最高解像度を達成した。また、これまで取り入れることのできなかった太陽表面付近領域を計算に含めることにも成功し、より現実の太陽に近いシミュレーションを実現し、実際の太陽表面で観測される超粒状斑(注7)よりやや小さい程度の熱対流を世界で初めて再現した添付資料のウェブサイトにある動画参照)。

本研究では、乱流的な対流層の実現に成功し、熱対流の構造と磁場生成についてその詳細を明らかにした。特に重要な発見は、以下の二点に集約できる。

  1. 太陽表面付近で発生した小スケールの熱対流は対流層をある程度まで侵入し、小スケールの乱流を発生させること。
  2. 熱対流の下降流によって、磁場は効率的に対流層底部に輸送され、そこで乱流により生成・増幅されること。

今後は、太陽の自転も取り入れた計算を進め、実際の太陽と比較することで、未解明である太陽の大規模流れ・黒点磁場生成機構の解明に挑む。とくに黒点生成は太陽物理学最大の謎であるが、それを解明するためには、440万kmの太陽円周の中の1000 km程度の磁場の集まりを分解しなければならないという困難な問題がある。本研究で、解像度を飛躍的に上げることに成功したので、この問題解決へ大きな一歩を踏みだした。本研究は、太陽活動11年周期の謎の解明や太陽活動の変動の予測に向け、世界で最も優れた方法を提案したものである。

本研究は、文部科学省HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」における「計算科学推進体制構築 研究支援体制による高度化支援利用」(課題番号hp120287、課題代表者:高エネルギー加速器研究機構 教授 橋本省二)の計算資源を利用して実施したものです。

発表雑誌

雑誌名
「The Astrophysical Journal」4月11日
論文タイトル
High-resolution calculations of the solar global convection with the reduced speed of sound technique: I. The structure of the convection and the magnetic field without the rotation
著者
H. Hotta, M. Rempel, T. Yokoyama

添付資料

図やシミュレーションの動画は、以下のサイトより入手いただけます。
http://www-space.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~hotta/movie/conv_spe.html

用語解説

注1 対流層
太陽は、その中心部において核融合でエネルギーを生成し、半径の7割までは光でエネルギーを外に運び放射層と呼ばれる。半径の7割から表面までは、熱対流によりエネルギーを運ぶので対流層と呼ばれる。
注2 乱流
粘性の効果的な場で、乱れなく流れる場を層流と呼び、粘性が効果的でなく乱れた場を乱流と呼んでいる。太陽対流層は、その系のスケールと粘性の小ささから非常に乱流的になっている。
注3 熱対流
重力の支配下にある大気で、エネルギーを運ぶ機構である。鍋を火で沸かした時に、ぼこぼこと流れを誘起する現象と本質的には同じである。太陽では、中心部分での核融合が鍋の火の代わりになっている。
注4 差動回転
太陽はプラズマで構成されているので、地球のように剛体回転でなく、場所によって自転の速度が違う。これを差動回転と呼ぶ。具体的には赤道部分は25日ほどで、極付近は30日ほどで一周する。
注5 黒点
太陽表面上に見られる黒いシミである。これは、太陽表面でも磁場の強い領域と考えられている。
注6 太陽活動11年周期
太陽の黒点の観測は1600年代にガリレオ・ガリレイが始めたが、それ以来、黒点の個数は11年の周期で変動していることが知られている。この周期を維持する機構は明らかになっておらず、天文学最古にして最大の問題と呼ばれている。
注7 超粒状斑
太陽表面には1000 km程度の熱対流セルである粒状斑と3万km程度の特徴をもつ超粒状斑が観測される。
※ スーパーコンピュータ「京」
文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理研と富士通が共同で開発を行い、2012年9月に共用を開始した計算速度10ペタフロップス級のスーパーコンピュータ。「京(けい)」は理研の登録商標で、10ペタ(10の16乗)を表す万進法の単位であるとともに、この漢字の本義が大きな門を表すことを踏まえ、「計算科学の新たな門」という期待 も込められている。