2014/3/24

植物の木質細胞が作られる仕組みを解明

発表者

  • 福田裕穂(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 教授)
  • 近藤侑貴(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 特任研究員)

発表のポイント

  • 植物の幹細胞様の細胞から木質細胞への分化の仕組みを初めて明らかにしました。
  • この仕組みを人為的に操作することにより、葉を構成する細胞を木質細胞へと変化させることに成功しました。
  • 薬剤を用いて、厚い二次細胞壁をまとった木質細胞を人為的に作り出せることから、木質バイオマス増産のための新しい技術基盤となることが期待されます。

発表概要

樹木に代表されるように、植物は生涯を通して肥大成長します。この肥大成長は、植物が水分や養分を運ぶための管として働く維管束内の前形成層(注1)とよばれる幹細胞様の性質をもつ細胞群の分裂と分化によってもたらされます。しかし、これまで前形成層細胞の運命を厳密に制御する詳細な仕組みは明らかになっていませんでした。

東京大学大学院理学系研究科の福田裕穂(ふくだひろお)教授と近藤侑貴(こんどうゆうき)特任研究員らの研究グループは、モデル植物シロイヌナズナを用いて、前形成層細胞から木質細胞(注2)への分化を制御するTDIFと呼ばれるペプチドホルモンについて、細胞内を情報が伝わっていく仕組み(細胞内シグナル伝達機構)を明らかにしました。

TDIFペプチドは、細胞膜に存在するTDRと呼ばれる受容体と結合し、この細胞外からの情報はGSK3sと呼ばれるタンパク質キナーゼ群 (注3)を介して細胞内を伝わっていくことが明らかとなりました。この発見をもとに、阻害剤を用いてGSK3sの活性を抑えることで、大量の木質細胞を作り出すことができるようになりました。

今回発見された仕組みを利用することで、厚い二次細胞壁をまとった木質細胞を人為的に作り出せることから、遺伝子レベルでの木質バイオマスの改変や増産といった、新しい技術開発につながることが期待されます。

発表内容

図1

図1:前形成層細胞(維管束内で幹細胞様の性質をもつ細胞)の運命を決めるTDIF-TDRシグナル伝達の仕組み

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図2

図2:シロイヌナズナの子葉においてGSK3sの活性を阻害して誘導した木質細胞

左:二次細胞壁が肥厚した木質細胞が葉一面に分化している様子。

右:木質細胞が分化している様子を、二次細胞壁を構成するリグニンを紫外光で可視化して表示。

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生物の体は、高度に機能分化した多様な細胞から構成されています。このような多様な細胞の一部は、さまざまな細胞へ分化する可能性を秘めた幹細胞から作られ、近年では、iPS細胞をはじめとし、幹細胞からの分化を制御する仕組みを解明しようとする研究が盛んに進められています。植物では、生涯を通じて継続的に肥大成長する上で、幹細胞様の性質をもつ前形成層や形成層細胞が重要な働きをもちます。前形成層細胞は、細胞分裂をおこなって自己複製をするとともに、物質輸送や体支持を担う木質細胞へと分化していきます。これらの分裂や分化はCLEペプチド(CLV3/ESR-related peptide)(注4)の一種であるTDIFとその受容体TDRを介して、細胞外の情報が細胞内へと伝えられていくこと(TDIF-TDRシグナル伝達)によって制御されています。しかしながら、TDIF-TDRシグナル伝達がどのようにして前形成層細胞から木質細胞への分化を制御しているのか、その仕組みはわかっていませんでした。

福田教授らの研究グループは、酵母ツーハイブリッド法(注5)を用いて、シロイヌナズナのTDR受容体と結合するタンパク質を探索し、GSK3s(Glycogen synthase kinase 3 proteins)とよばれるタンパク質キナーゼ群がTDIF-TDRシグナル伝達に関わることを突き止めました。実際、新たに開発した蛍光レポーター(注6)を用いた解析から、シロイヌナズナの前形成層細胞において、GSK3sはTDIFがTDR受容体に作用することによって活性化されることが分かりました。また、シロイヌナズナにTDIFを投与すると木質細胞の分化が著しく阻害されますが、GSK3sの機能を欠失した遺伝子改変植物ではTDIFに対する応答が低下していたことから、GSK3sが遺伝学的にもTDIF-TDRシグナル伝達において働くことが示唆されました。さらに、このTDIF-TDRシグナル伝達では、GSK3sが転写因子BES1を介して木質細胞への分化を抑制することで、前形成層細胞が維持され、植物体の肥大成長に貢献していることも分かってきました(図1)。そこで、GSK3sの活性を阻害剤によって阻害することで、木質細胞への分化運命を人為的にコントロールできるか調べました。その結果、驚くべきことに、細胞の初期化を誘導できる植物ホルモン、オーキシンとサイカイニンと共にGSK3s阻害剤でシロイヌナズナの子葉(双葉)を処理すると、わずか3〜4日という短い期間で大量の木質細胞を作り出すことができました(図2)。

このように今回明らかになった前形成層細胞から木質細胞が分化する仕組みを利用して、木質細胞の分化を人為的に誘導する新規な方法を確立するに至りました。今後、この方法を基に遺伝子改変技術と組み合わせていくことで、植物バイオマス利活用のための木質細胞の大量生産だけではなく、植物の性質改良を目指した研究が発展すると期待されます。

なお、本成果は、理化学研究所の白須賢グループディレクターおよび中神弘史ユニットリーダーとの共同研究によるものです。

発表雑誌

雑誌名
「Nature Communications(オンライン版)」
論文タイトル
Plant GSK3 proteins regulate xylem cell differentiation downstream of TDIF-TDR signalling
著者
Yuki Kondo, Tasuku Ito, Hirofumi Nakagami, Yuki Hirakawa, Masato Saito, Takayuki Tamaki, Ken Shirasu, and Hiroo Fukuda
DOI番号
10.1038/ncomms4504

用語解説

注1 前形成層
維管束内で根から水分、塩類やシグナル分子を運ぶ木部と葉で作られた糖類やシグナル分子を運ぶ篩部(しぶ)の間に位置する組織で、維管束の幹細胞群から構成される。
注2 木質細胞
疎水性の厚い細胞壁をもつ丈夫な植物細胞。木質細胞は主に木部で見られ、その主な働きは植物を支え、水を輸送すること。
注3 タンパク質キナーゼ
タンパク質をリン酸化する酵素。多くの細胞内シグナル伝達系で、タンパク質がリン酸化修飾を受けることで情報が次へと伝えられていく。
注4 CLEペプチド
低濃度でさまざまな生理活性をもつペプチドホルモンであり、12または13アミノ酸からなる。モデル植物シロイヌナズナにはCLEペプチドをコードする遺伝子が30種類以上存在する。
注5 酵母ツーハイブリッド法
酵母内で目的のタンパク質を発現させ、タンパク質間の相互作用を検出する手法。
注6 新たに開発した蛍光レポーター
植物の維管束細胞内でのGSK3sの活性を測定することが可能となるタンパク質。あるタンパク質の細胞内局在が、GSK3sの活性に応じて核から細胞質へと移行するという性質を利用し、そのタンパク質に緑色蛍光タンパク質(GFP)を融合させて蛍光レポーターを開発した。