2014/2/13 (配信日2/7)

生まれつつある原始惑星系円盤で劇的な化学変化:かつて太陽系も経験したか?

発表者

  • 坂井南美(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 助教)
  • 山本智(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 教授)

発表のポイント

  • 電波望遠鏡アルマ(ALMA注1)を用いた若い星の電波観測により、惑星系円盤が形成する境界で化学組成が大きく変化することを発見した。
  • これは原始星に降り注ぐガスが遠心力で滞留し、局所的な加熱が起こっているためと見られる。
  • 惑星系円盤の劇的な化学変化はかつて太陽系も同じことを経験した可能性があり、私たちの暮らす太陽系の成り立ちが今後の研究で明らかになっていくと期待される。

発表概要

私たちが暮らす太陽系が宇宙の中でどれほど貴重な存在であるのか、もしくはありふれた存在であるのかを理解する上で星や惑星系が形成される仕組みを明らかにすることは欠かせない。星は星間空間に漂うガスや塵が自らの重力で集まって生まれる。生まれた星の周りにはまだたくさんのガスが残っていて(エンベロープガス)星に向かって降り注いでいる。それと同時に、星の周りでは原始太陽系のもととなるガス円盤が成長する。これまで、(1) ガス円盤がどのように作られるか、(2) そのとき、エンベロープガスの化学組成がどのような変遷を受けるか、について観測的に捉えられたことはなく、このようなデータが得られれば太陽系の成り立ちについての理解がさらに深まると期待される。

東京大学大学院理学系研究科の坂井助教らは、電波望遠鏡アルマを用いて若い原始星L1527を観測し、生まれつつある円盤の外縁部で化学組成が劇的に変化していることを発見した。これまで、星間空間の物質は静々と惑星系円盤に降り積もり、取り込まれていくと考えられていた。しかし、実際には星に降り注ぐエンベロープガスが遠心力のために円盤の外縁部で滞留し、そこで局所的な加熱が起こって大きな化学変化を引き起こしていることがわかった。今回、この化学変化を見つけたおかげで、円盤が成長しつつある外縁部をくっきりと捉えることもできた。

この大きな化学変化はかつて太陽系でも起こっていた可能性がある。太陽系の物質的起源は隕石の分析や小惑星探査などで調べられているが、それらとの関連の探求がますます重要になっている。

発表内容

図1

図1. 左上:アルマ望遠鏡で観測されたcyclic-C3H2分子(炭素鎖分子の仲間)の分布。右上:原始星を通って南北に伸びる線上で、cyclic-C3H2分子のスペクトル線のドップラー効果による波長シフトを図示。分子のスペクトル線は、ドップラー効果によってその波長が本来の波長から少しずれて観測される。この波長のずれを運動速度に変換して表した。南側で速度が低い側(青方偏移:近づく運動)、北側で速度が高い側(赤方偏移:遠ざかる運動)にずれている。図2左のような円盤を横から見ると、ドップラー効果によって、このように円盤が回転運動していることがわかる。左下:ALMA望遠鏡で観測されたSO分子(一酸化硫黄)の分布。こちらは原始星の周りに集中していることがわかる。右下:右上図同様、原始星を通って南北に伸びる線上で、SO分子のスペクトル線のドップラー効果による波長シフトを図示。cyclic-C3H2分子と異なり、速度は原始星からの位置に比例する関係にある。回転するリングを真横から見たときにこのようになる。

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1. 研究の背景と意義

星と星との間に漂うガス(主に水素分子)や塵からなる雲(星間分子雲)が、それ自身の重力で集まることで星は誕生する。その際、周囲に作られるガス円盤(惑星系円盤)が惑星の起源である。悠久たる時間の中で多様な命を育むに至った太陽系。それは宇宙の中でどれほど貴重な存在であるのか?もしくはありふれた存在であるのか?宇宙における私たち自身の起源や存在意義を考える上で、惑星系円盤が周囲のガス(エンベロープガス)からどのように作られるのか、そしてそこでどのような物質進化が起こるのかを解明することは重要な課題であり、さまざまなアプローチが試みられている。これまでの多くの研究は、おもに構造や運動という物理的立場から、惑星系円盤の形成を調べようとしてきた。しかし、その視点だけからは惑星系円盤とエンベロープとの区別が難しく、形成現場を浮かび上がらせることはできないでいた。一方、惑星系円盤の形成に伴って物質がどのように進化するかについても、望遠鏡の感度と分解能が圧倒的に足りなかったこともあり、観測研究はほとんど進んでいなかった。これについては、さまざまな仮定のもとに作られた理論的手法が唯一の方法であった。当然のことながら、惑星系円盤形成における構造の変化と化学組成の変化は関連しているはずである。本研究は、このことに着目して惑星系円盤形成を調べた。

2. 研究内容

おうし座分子雲にあるL1527は、数1000 AU(1 AUは太陽と地球の距離)の大きさを持ち、中心で原始星が誕生したばかりの非常に若い分子雲コア(注2)である。東京大学大学院理学系研究科の坂井助教が率いる日・仏・台の国際共同研究チームは、南米チリアタカマ砂漠に建設された電波望遠鏡アルマの初期運用観測で、この天体の高感度・高空間分解能観測を行い、惑星系円盤が形成される様子をいくつかの分子のスペクトル線(注3)を用いて調べた。その結果、中心星から半径100 AUの位置よりも内側で、炭素鎖分子(注4)やその仲間の分子が急激にガス中からなくなってしまっていることを見出した(図1左上;右上)。ドップラー効果(注5)の精密な測定からそれらの分子の運動を調べたところ、100 AUという半径は、落ち込んでくるガスが遠心力のために滞留し(遠心力バリア:注6)、惑星系円盤に移り変わっていく半径であることがわかった(図2)。即ち、惑星系円盤形成の「最前線」を同定することができた。一方、一酸化硫黄分子の分布を調べたところ、この分子はその「最前線」の半径(100 AU)付近でリング状に局在していることがわかった(図1左下;右下;図2)。一酸化硫黄分子の温度が、落ち込んでくるガスの温度に比べて明らかに高いことから、落ち込むガスが「最前線」に突っ込むとき、弱いながらも衝撃波が生じている可能性が高い。その結果、ガス中に含まれる塵(星間塵)の表層に凍りついていた一酸化硫黄分子がガス中に放出され、リングのように観測されたと見られる。惑星系円盤の密度は非常に高いので、この領域を通過した後は急速に冷え、円盤内ではほとんどの分子が星間塵に凍りついてしまうと推察される。惑星系円盤が作られるときにガスの化学組成がこれほどまでに変化するとは、予想すらされていなかった。今回、硫黄を含む分子や炭素鎖分子など、化学的な特徴が際立った分子種のスペクトル線を観測したことで、このような円盤誕生とそこで起こっている化学変化の様子を初めて捉えることに成功した(図3参照)。

3. 将来の展望

本研究では、化学組成の分布に着目した高解像度・高感度観測により、惑星系円盤が形成される際に激しい化学変化が起こることを明らかにしたばかりか、惑星系円盤が形成されつつある「最前線」を炙り出すことに成功した。このような観測はアルマ望遠鏡によって初めて可能になったものであり、今後、大きな発展が期待される。とりわけ、L1527で見られた惑星系形成の描像が、他の原始星でどれくらい一般的に成り立っているかに大きな興味が持たれる。惑星系形成の理解を目標とした観測は活発に行われているが、本研究のように化学組成に着目した研究はほとんどない。この新しい切り口から、惑星系形成過程とそこでの物質進化の一般性、多様性が、ここ数年程度でかなりわかってくるだろう。そのとき、私たちの太陽系が、同様の過程を経たかどうかについても検証していくことが可能になると期待される。太陽系の物質的起源については、本研究のような天文学的なアプローチとともに、私たちの太陽系の物質を調べてその起源を辿る研究も展開されている。隕石の精密分析や彗星の分光観測、また、小惑星からのサンプルリターン(「はやぶさ」など)がその例である。それらに残された原始太陽系の痕跡の理解においても、本研究の与えるインパクトは大きい。

この研究は、文部科学省科学研究費補助金、基盤研究(S) 21224002, 基盤研究(C) 25400223, 新学術領域研究「宇宙分子進化」25108005、および日本学術振興会日仏共同セミナーSAKURAプログラムの補助を受けて行われました。

発表雑誌

雑誌名
Nature (オンライン版2月12日 紙面版3月6日号掲載)
論文タイトル
Change in the chemical composition of infalling gas forming a disk around a protostar
著者
Nami Sakai, Takeshi Sakai, Tomoya Hirota, Yoshimasa Watanabe, Cecilia Ceccarelli, Claudine Kahane, Sandrine Bottinelli, Emmanuel Caux, Karine Demyk, Charlotte Vastel, Audrey Coutens, Vianney Taquet, Nagayoshi Ohashi, Shigehisa Takakuwa, Hsi-Wei Yen, Yuri Aikawa & Satoshi Yamamoto
DOI番号
10.1038/nature13000
アブストラクトURL
http://dx.doi.org/10.1038/nature13000

図2. 左:作られつつある半径100 AUの原始惑星系円盤へ、回転しながら落ち込むガスの運動の様子。中:ガス(分子)の運動速度の視線方向成分の最大(小)値と原始星からの距離の関係。右:中図を観測されたcyclic-C3H2分子(炭素鎖分子の仲間)の運動速度の図と重ねたもの。モデルの線が観測される速度構造をよく再現していることがわかる。 100 AUを境にその内側ではcyclic-C3H2分子のスペクトル線強度が下がるが、SO分子(一酸化硫黄)のスペクトル線強度は、100 AUの位置付近で高い。

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図3. 回転しながら原始星へと落ち込むガスのイメージ図。遠心力バリアが一酸化硫黄分子によってハイライトされている(図中で青く示されているリング)。バリアの内側には原始惑星系円盤が形成されている。

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図4. アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)(2013年3月撮影)

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用語解説

注1 アルマ望遠鏡
アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)は、ヨーロッパ、東アジア、北米がチリ共和国と協力して建設する国際天文施設である(図4)。12 mアンテナ54台、7 mアンテナ12 台、計66台のアンテナ群からなる。ALMAの建設費は、ヨーロッパではヨーロッパ南天天文台(ESO)によって、東アジアでは日本自然科学研究機構(NINS)およびその協力機関である台湾中央研究院(AS)によって、北米では米国国立科学財団(NSF)ならびにその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院国家科学委員会(NSC)によって分担される。ALMAの建設と運用は、ヨーロッパを代表するESO、東アジアを代表する日本国立天文台(NAOJ)、北米を代表する米国国立電波天文台(NRAO)が実施する(NRAOは米国北東部大学連合(AUI)によって管理される)。合同ALMA観測所(JAO)は、ALMAの建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とする。2011年より部分運用が開始され、2013年より本格運用を開始。感度と空間解像度でこれまでの電波望遠鏡を10倍から100倍上回る性能を持ち、星間分子観測に大きな威力を発揮すると期待されている。
注2 分子雲コア
分子雲の中で特に密度が高くなった部分を指す。自己重力で束縛されており、原始星の直接的な母体である。典型的な大きさは0.3光年程度、質量は太陽質量のおよそ10倍程度である。
注3 スペクトル線
ここでは分子の回転に伴う回転スペクトルを指す。分子の回転は、量子力学によって記述され、飛び飛びのエネルギー準位を持つ。ひとつの回転状態が別の回転状態に変わるときに、決まった周波数の電磁波を放射する。回転状態の遷移は主に電波領域で観測される。その周波数は分子ごとに異なっており、観測されるスペクトル線の周波数から分子を同定できる。また、その強度などから分子の存在量や温度を求めることもできる。
注4 炭素鎖分子
炭素原子が直線状に結合した分子で、HCnN, CnH, CnH2, CnS, CnOなどの系列が知られている。炭素原子の数の割に水素原子が少ない不飽和な分子で、一般に化学反応性が高い。そのため、地上環境では存在しないが、低温(-263℃)で希薄(地球大気の千兆分の1)な星間分子雲では数10万年もの寿命を持つ。似た性質の分子として、鎖状ではなく環状に炭素が連なったcyclic-C3H2などの分子も知られている。
注5 ドップラー効果
運動する物体の放射する光の波長が、運動速度に応じて変化する現象。近づいてくる物体から放射されると波長は短くなり(振動数は高くなり)、遠ざかる物体から放射されると波長が長くなる(振動数が低くなる)。
注6 遠心力バリア
遠心力と重力が釣り合う半径の1/2の半径を示す。角運動量が保存される限りこれより内側にはガスは入り込めない。このため、この場所を遠心力バリアと呼び、ガスは一旦ここで足止めされた後に角運動量を失いながら徐々に円盤へと取り込まれていくと考えられる。
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