2013/4/8

福島県内における大規模な内部被ばく調査の結果

— 福島第一原発事故後7-20ヶ月後の成人および子供の体内セシウム量 —

発表者

  • 早野龍五(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 教授)

発表のポイント

  • 福島県内でホールボディーカウンター(以下WBC(注1))を用いて三万人以上の体内セシウム量を測定し、チェルノブイリ事故で得られた知見に基づく予想よりも、内部被ばくが遙かに低いことを明らかにした。
  • 特に、2012年秋に三春町の小中学生全員を測定したところ、検出限界を超えた児童生徒は皆無であった。サンプリングバイアス(注2)が無い測定により福島の内部被ばくが低いことが示されたのは、これが初めてである。
  • 現在の福島県内の日常生活において、食品からの慢性的な放射性セシウム摂取が非常に低く抑えられていることが示された。

発表概要

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授 早野龍五らのグループは、福島第一原発事故後7-20ヶ月間に、福島県平田村のひらた中央病院に設置されたWBCを用いて、32,811人の内部被ばく調査を行った。その結果、福島県内の放射性セシウムによる土壌汚染度にチェルノブイリ事故後の知見を当てはめて予想した値よりも、福島県内の内部被ばくは遙かに低いことが明らかになった。特に、福島県三春町において、小中学生全員を測定したところ、2012年秋の段階で検出限界を超える放射性セシウムが検出された児童生徒は皆無であり、福島の内部被ばくが低いのは「サンプリングバイアス(安全そうな人ばかり測ると実際より不当に低い数値が出てしまう)」によるものではないことが初めて示された。

発表内容

①研究の背景・先行研究における問題点

福島第一原発事故により、福島県内の土壌は放射性セシウム(注3)により汚染された。チェルノブイリ事故後の知見によれば、土壌汚染と内部被ばくはほぼ比例しており、137Csが地表に1平方メートルあたり1キロベクレル(1 kBq/m2)ある地域の居住者の食品由来の内部被ばくは、年間約マイクロシーベルト(20µSv/年)とされている。

福島市、郡山市などの137Csによる典型的な汚染度は100kBq/m2以上に達しており、チェルノブイリ事故の知見をそのまま当てはめると、福島県の中通りや浜通りの多くの住民の、食品由来の内部被ばくが(134Csの寄与も考えると)年間5ミリシーベルト(5mSv/年)を超えるのではないかと危惧された。

福島県がホームページで毎月発表しているWBCを用いた内部被ばく検査の結果によれば、これまでに検査を受診した106,096人のうち、実効線量が1mSvを超えた方は26名のみで、福島県内の平均的な内部被ばくが低いことを示唆しているが、福島県の公表データは、実効線量1mSv刻みの人数統計を示すのみであり、被検者の大多数が属する「1mSv未満」の中の分布が不明である。

また、特に重要なのが、「サンプリングバイアス」の問題である。すなわち、現時点で内部被ばくが低いという結果が出ているのは、そのような被検者のみが抽出されて検査されているのではないか、という疑問に、現在までの公表データは十分に答えられるものになっていない。

②研究内容(具体的な手法など詳細)

WBC検査は、福島県平田村のひらた中央病院に設置されたWBC を用いて行った。今回の検査における放射性セシウムの検出限界(検出可能な最小値)は、134Cs、137Csともに全身で300Bqである。

2011年10月から2012年11月までの被検者数は32,811名であった。2012年春までは初期被ばくの影響が見られたが、2012年春以降の放射性セシウム検出率は低く、特に子供(15歳以下)については、2012年5月以降の検出率は0.0%である(10237人が受診し、一人も検出されていない)。全体でも、セシウム検出率は1%程度である。

すなわち、福島県の公表データが「1mSv未満」としている方々は、0-1mSvの中に均等に分布しているわけではなく、その大多数は不検出なのである。

更に、福島県内の内部被ばくが極めて低いというこの結果が、「サンプリングバイアス」によるものではないことを確認するため、福島県三春町の小中学生のデータを詳しく調べた。2012年の秋に実施した三春町の小中学生の「全員」の検診で、放射性セシウム検出者数は0人であった。

このように、ある地域の児童生徒全員の内部被ばくを測定することによって、内部被ばくが低いのはサンプリングバイアスによるものではないことが示されたのは、今回が初めてである。

③社会的意義・今後の予定など

福島県で暮らしておられる方々の食品由来の内部被ばくが極めて低いことが示された。その原因の解明は本論文の範囲を超えるが、少なくとも、食品検査・スクリーニングは有効に働いていると考えられる。内部被ばくを引き続き低く保つためには、今後も食品検査とWBC検査を長期的に継続する必要がある。

発表雑誌

雑誌名
「Proceedings of the Japan Academy Series B」(オンライン版4月11日)
論文タイトル
Internal radiocesium contamination of adults and children in Fukushima 7 to 20 months after the Fukushima NPP accident as measured by extensive whole-body-counter surveys
著者
Ryugo S. Hayano1, Masaharu Tsubokura2, Makoto Miyazaki3, Hideo Satou4, Katsumi Sato4, Shin Masaki4, Yu Sakuma4
  1. Department of Physics, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo, 113-0033, Japan
  2. Division of Social Communication System for Advanced Clinical Research, Institute of Medical Science, The University of Tokyo, 4-6-1 Shirokanedai, Minato-ku, Tokyo 108-8639, Japan
  3. Department of Radiation Health Management, Fukushima Medical University, Hikariga-oka, Fukushima 960-1295, Japan
  4. Hirata Central Hospital, Hirata village, Fukushima 963-8202, Japan

用語解説

注1 ホールボディーカウンター (Whole Body Counter:WBC)
体内に取り込まれた放射性物質(現在の福島県内では放射性セシウム)が崩壊する際に放出するガンマ線を検出することにより、体内の放射性物質の量を推定するための装置。
注2 サンプリングバイアス
ある母集団の一部を測定した際、測定対象の選び方に偏りがあり、母集団全体を代表しない結果を得てしまうこと。内部被ばく調査の場合、主として自主的に受診される住民を測定していると、(もともとそういう方は内部被ばくに対して注意を払っておられるため)数値が全体の分布より低い方に偏るのではないかと危惧されている。
注3 放射性セシウム
福島第一原発事故で放出された放射性物質のうち、長期にわたり内部被ばくの主因となると考えられているのが134Cs(半減期約2年)と137Cs(半減期約30年)である。2012年4月1日から施行された新基準値(一般食品で100Bq/kg)は、放射性セシウムである134Csと137Csの総量に対するものである。