2009/12/22

ケニヤのサンゴ年輪から115年間のインド洋ダイポール変動復元に成功

- 地球温暖化でインド洋の気候モードがシフト -

発表者

  • 中村 修子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 特任研究員)
  • 茅根 創(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 教授)
  • 飯嶋 寛子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 特任研究員)
  • Timothy R. McClanahan(米国Wildlife Conservation Society 上席保護官)
  • Swadhin K. Behera(海洋研究開発機構地球環境変動領域 チームリーダー)
  • 山形 俊男(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 教授,理学系研究科長)

発表概要

1999年に山形らが衛星観測などによる物理データの解析から発見したインド洋ダイポールモード現象(IOD)を、 初めてケニヤのサンゴ年輪解析から長期復元し、過去115年間に西インド洋の温暖化によって10年周期だったIODが2年前後に短周期化し、 エルニーニョ/南方振動現象(ENSO)に代わってインド洋気候を支配していることを発見した。

発表内容

図1

図1:正のインド洋ダイポールモード時におけるインド洋東西の降水偏差。 緑は通常年より降水が多いこと、グレーは少ないことを示す。赤印はサンゴの採取地点(ケニヤのマリンディ)。

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図2

図2:サンゴコアは海中で採取する。

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図3

図3:サンゴコアのX線写真。 左上が最上部で2002年10月、右下の底部(1887年)まで115年の年輪を持っている。

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図4

図4:(a) およそ月単位で測定したサンゴ酸素同位体比(青線グラフの山と谷が1年の季節変動を示す、紫と黒線は12ヶ月および5年移動平均値を示す)。 グラフ上部ほど高水温で降水が多い。この期間、西インド洋の水温が0.7度上昇し降水も増加していることを暗示している。

(b) 酸素同位体比から 9-11月の降水偏差を抽出したサンゴ IOD指標(赤線)。サンゴ IOD指標が上の破線をこえて高い年(赤丸)は正のダイポールが、下の破線をこえて低い年(青丸)は負のダイポールが起こったことを示す。過去40年間では観測データから得られたIOD年とサンゴ指標はよく一致する。

(c) サンゴ IOD指標の周期解析結果。明るい色の部分はその横軸の示す周期が卓越し、振幅が強いことを示す。20世紀初頭は10年、1930年前後は7年、1970年前後は6年、1990年代は2~3年の周期でIODが起こり、周期が短くなっていった。

(d) インドモンスーンとENSO、IODとの相関。20世紀前半にENSOに支配されていたインドモンスーンの強弱が、1980年以降IODに支配されるように逆転した。

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山形らが1999年に発見したインド洋ダイポール現象 (IOD)は,太平洋のエルニーニョ/南方振動現象 (ENSO)と類似の、 しかしENSOとは独立して起こるインド洋の海洋気候変動で、インド洋のみならず世界各地の気候に大きな影響を及ぼすことが知られている。正のダイポールモード時にはインド洋東側のインドネシアやオーストラリアが乾燥し,西側のケニヤなど東アフリカでは大雨となる。1994年の日本の猛暑や1997年のマレーシアの山火事、 2006年の東アフリカの大洪水、あるいは今年初めのオーストラリアの森林火災(Black Saturday)など、多くの異常気象現象が,最近頻発するダイポール現象に関係していることがわかってきた。IODが原因となって起こる干ばつや洪水は,社会経済的に脆弱なアジア・アフリカ諸国に甚大な被害を出すため、IODの正確な発生予測が熱望されている。しかしIODは最近40年間の観測記録の解析研究から発見されたもので,長期変動の実態は不明だった。地球温暖化に伴う未来の気候状態を知るためにも、より長期にわたる過去のIOD発生記録の復元が切望されていた。

我々はこれを西インド洋のサンゴ年輪を用いて解決しようと試みた。ハマサンゴは石灰質骨格に年輪を刻んでおり、この年輪の解析によって過去の水温や降水量の変動を復元することができる。2002年10月にケニヤのマリンディ海洋公園で採取された全長180cmのハマサンゴのコアは 115年分の年輪を持っていることが確認され、 およそ月単位(1.5mm間隔)で年輪の酸素同位体比を解析した。ケニヤでは正のダイポールの年には9-11月にかけて高い降水量が観測され、これをIODのシグナルとすることができる。我々はサンゴ年輪の同位体比記録から9-11月の降水偏差を抽出して、過去115年間 (1887-2002年)の降水復元 = IOD復元に成功した。

その結果、 1924年以前には10年に1回程度だったダイポールモードの周期が1924年以降短くなり,1990年代以降は約2年に1回と頻発し規模も大きくなっていることが確認された。これは西インド洋の水温上昇と対応しており,この水温上昇が最近のIODの頻発の引き金になっていると筆者らは考えた。IODの活発化に伴って、20世紀前半には太平洋の ENSO がインドモンスーンなどインド洋と周辺の気候を支配していたのに代わって,インド洋ダイポールモードが支配勢力となってきていることも分かった。

インド洋ダイポールモードの長期復元は、このモードの長期変動の実態を解明する上で重要な情報であり、気候変動研究に広く貢献する。これまで世界の様々な異常気象は,ENSOとの関連で説明されてきたが,そうした説明が成り立たない異常気象(たとえば今年のオーストラリアの乾燥)が最近頻発していることも,20世紀後半以降IODが活発になったためと考えると理解でき,長期気象予測の精度を上げることができる。また今回の研究は、モデル研究とフィールド研究の共同によって成功した例としても重要である。

なお本研究は、以下の資金により行われた。

  • 平成14~16年度文部科学省科学研究費補助金(基盤研究 (A)(2)課題番号:14253005)
    研究課題「インド洋ダイポール変動の長期的復元」

発表雑誌

Geophysical Research Letters

Nakamura, N., H. Kayanne, H. Iijima, T. R. McClanahan, S. K. Behera, and T. Yamagata (2009), Mode shift in the Indian Ocean climate under global warming stress, Geophyscal Research Letters, 36, L23708, doi:10.1029/2009GL040590.
(中村修子・茅根 創・飯嶋寛子・T. R. McClanahan・S. K. Behera・山形俊男 (2009), 地球温暖化に伴うインド洋気候のモードシフト.地球物理研究レター,36巻,L23708)

2009年12月8日オンライン版公表。12月18日に AGU Journal Highlight に選出されたことが公表された。
AGU : American Geophysical Union 米国地球物理連合