2007/5/17

細胞内におけるミトコンドリアRNAの可視化検出法の開発

発表者

  • 小澤 岳昌(自然科学研究機構分子科学研究所 准教授)
  • 名取 穣(東京大学大学院理学系研究科化学専攻 博士課程修了)
  • 梅澤 喜夫(東京大学大学院理学系研究科化学専攻 元教授)

概要

生細胞内において塩基配列特異的にミトコンドリア内のmRNAを蛍光検出するプローブを初めて開発した。

発表内容

図1

図1:mtRNAの検出原理

拡大画像

図2

図2:プローブ蛍光回復のmtRNA依存性

拡大画像

図3

図3:ミトコンドリア内におけるmtRNA拡散

拡大画像

図4

図4:H2O2暴露下におけるmtRNAの拡散

拡大画像

図5

図5:掲載誌の表紙

拡大画像

ミトコンドリアは、外膜と内膜に囲まれた膜間腔(IMS)と、内膜に囲まれたマトリックスの二つの空間から構成されており、マトリックス内にミトコンドリア独自のゲノム(mtDNA)を持つ。本研究では、mtDNAから転写されてくるミトコンドリアRNA(mtRNA)の検出法を開発した。

従来のmtRNAの観察法は、細胞を破砕する分離精製法、または細胞固定化後のin situ ハイブリダイゼーション法が挙げられるが、それらの方法では、生細胞内におけるmtRNAの動態をリアルタイムに観察することが不可能であった。そこで本研究では、局在場所や時間変化といった時空間情報を損なわずに、mtRNAの動態観察を可能とする可視化プローブを開発した。

二つに分割して蛍光を失った蛍光タンパク質 (EGFPまたはVenus)の各々に、RNA結合タンパク質のRNA結合ドメイン(mPUM1、mPUM2)を付加したプローブ1、2を作製する(図1)。両方のプローブが塩基配列選択的に標的RNAに結合して RNA-プローブ三元錯体を形成し、近接したEGFPどうしが再結合することで蛍光が回復する。検出対象として、mtRNAのひとつであるNADH dehydrogenase subunit 6(ND6)のメッセンジャー RNA(mRNA)を選択し、その塩基配列特異的な検出を行うためにプローブのRNA結合ドメインに改変を加えた。細胞に導入したプローブを分離精製し、結合しているRNAを抽出して逆転写PCRを行ったところ、両方のプローブともにND6の mRNAに結合しており、結合塩基配列を持たないNADH dehydrogenase subunit 1(ND1)のmRNAには結合していないことが分かった。

次に、フローサイトメーターを用いて細胞の蛍光強度測定を行った。プローブを発現している細胞からは蛍光性の細胞集団が観測されたが、mtDNA欠損細胞にプローブを導入しても蛍光性の細胞が観測されなかった(図2)。細胞が蛍光を得るためには、細胞内にmtDNA(mtRNAの設計図)が必要であることから、プローブはmtRNAの存在下で蛍光を回復させていることが分かった。これらの結果が示すことより、プローブはmRNA選択的に蛍光検出していることが分かった。蛍光顕微鏡の細胞観察では、プローブの蛍光とミトコンドリア染色試薬による蛍光とが画像上で一致しており、mRNAがミトコンドリア全体に局在していることが示唆された。

しかしながら、プローブの蛍光団の形成は不可逆反応であるために、蛍光回復後にmtRNAから解離したプローブも蛍光性のままである。

蛍光の分布がmRNAの局在を反映することをさらに裏付けるため、強力な励起光照射を行いて蛍光性プローブの蛍光団をブリーチ破壊し、新たに蛍光団が形成されてくる場所を観察するfluorescence recovery afterphotobleach(FRAP)法を用いた検討を行った。その結果、mtRNAの産出場所であるmtDNA上だけではなく、mtDNAが存在しない場所からもプローブの蛍光の産生が見られた。この結果は、mtDNAに局在しているmRNAもあれば、mtDNAから離れて分布しているものも存在することを示している。従って、mtDNAで合成されたmRNAは、合成後にミトコンドリア全体に分散していくと考えられる。

mtDNAで合成された後のmRNAが分散していく過程を観察するために、FRAP法を用いて蛍光顕微鏡観察を行った。直径4μmの強力な励起光照射を行い、局所的にプローブの蛍光をブリーチさせ、ブリーチ領域内の蛍光強度経時変化を追った。しかし、30分間ではブリーチ領域内のプローブ蛍光の回復はわずかであった(図3)。一方、mtRNAに結合しない完全長 EGFPを用いて同様の実験を行ったところ、ブリーチ領域はEGFPの拡散によって30分間で85%の蛍光を取り戻した。従って、プローブはmRNAに強く結合しており、かつmRNA自体がミトコンドリア内を自然拡散できないことが分かった。mRNAはmtDNAやミトコンドリアリボソーム、または膜タンパク質などに結合して、膜上をゆっくり移動していると考えられる。

細胞内においてミトコンドリアは最大の活性酸素種源である。また、活性酸素種に暴露されたmtRNAは徐々に分解されていくことが知られている。そこで、活性酸素種であるH2O2に細胞を暴露し、FRAP法にてmRNAの動態観察を行った。前述の条件とは対照的に、ブリーチ領域は30分間で80%の蛍光を取り戻した(図4)。一方、逆転写PCRを用いた測定によると30分間に分解されたmRNAの量はわずか 30%であった。従って、観測された蛍光の回復は、mRNAの分解に よるプローブの遊離・拡散だけでなく、本来自然拡散できないはずの mRNAが、H2O2暴露によって拡散することに起因すると考えられる。

本研究では、生細胞内において塩基配列特異的にミトコンドリア内のmRNAを蛍光検出するプローブを初めて開発した。開発したプローブを用いて、ミトコンドリア内のmRNAが自由に拡散できない状態にあることを明らかにした。さらに、H2O2暴露によって、mRNAの分解と供にmRNAのマトリックス空間への拡散が起きていることを明らかにした。

この研究は、T.Ozawa,Y.Natori,M. Sato,Y.Umezawaの“Imaging dynamics of endogenous mitochondrial RNA in single living cells”と題する論文として、Nature Methods,4,413-419 (2007) に掲載され、同巻号の表紙を飾っている。

発表雑誌

Nature Methods,4,413-419 (2007)
“Imaging dynamics of endogenous mitochondrial RNA in single living cells”