憲章の制定にあたって

大学院理学系研究科・理学部憲章の制定にあたって

元理学系研究科長 (2005~2007) 岩澤康裕

20世紀には、華々しい自然科学の開花と、それに支えられた科学技術の発展がありました。 それらの技術は人間の営みを快適にするのに大きく貢献してきましたが、 一方で人類の生存に対する脅威となりうることも明らかになってきました。 そのためか、科学的知識を持つかそれに関心を持つ市民の割合は、 多くの先進国で50%前後であるにもかかわらず、我が国では20%を割っており、 15-16位と先進国最低の水準だそうです(※1)。 その風潮は将来を担う子供にまで影響を与えており、 科学的な発見は益よりも害を多くもたらすと答えた生徒が、 95年と比べて7.3ポイント増えて38%に達するそうです(※2)。

このような数字を見ると、科学技術が、必ずしも日本の社会からは受容されていないことが分かります。 しかし、科学技術が生みだした負の部分を克服していくための努力の基礎として、 理学(基礎科学)による自然のしくみに対する深い理解がなければならないことは是非申し上げたいことです。 社会の安寧を守り、限りある地球とのより良い関わり方を知るために、 今後とも理学の重要性は増加することはあっても、減ることはないでしょう。

理学の高等教育に携わる教育者として、また、理学研究の先端を担う科学者として、 東京大学大学院理学系研究科・理学部は、理学の中核拠点としての責任を自覚し、 新たな知の開拓に努めて行きたいと思っております。 それと同時に、社会への理学の重要性の訴え方がかならずしも十分ではなかったのでないかという反省を持ちました。 その中で、理学の持つ意味や、そのあり方の本質を再確認し、積極的に自らを変革し、 なお一層の先端的な理学の教育研究を進める決意を固めております。

近年、国立大学の法人化などの動きに象徴されるように、大学の枠組みが大きく変わろうとしております。 その中で理学系研究科はこれらの動きに自らの意志で対応し、よりよい理学の教育研究を進める決意です。 現在ともすれば短期的なものの見方をする風潮が社会で強まっていますが、 われわれは、長期的視野から大学院理学系研究科・理学部の将来像を検討し、 教育研究の方針を立てそれを推進する上での規範を制定することが必要であると考えました。 その検討の中から生まれたのが大学院理学系研究科・理学部憲章です。

この憲章の下、 大学院理学系研究科・理学部では今後とも理学教育・研究において更なる努力をしていく所存でございますので、 皆様のご理解と益々のご支援をお願い申し上げます。

  • ※1 経済協力開発機構(OECD)の1997調査
  • ※2 国立教育研究所(1998)による