理学部生海外派遣プログラム

第2回 Padova Part.2

大学町パドヴァ

図3 図4 図5
図9

Bo(旧大学)の回廊

図7

ガリレオの教壇

パドバはイタリア北東部に位置する、パドバ大学を中心にできた町です。ベネチアからはバスで40分程度、電車では一時間弱でした。

町は石造りの建物と道によってできており、古い建物を崩さず残してきたという印象を受けました。まるで物語に出てくるような光景で、夢の世界に飛び込んだ感覚で町を歩き回ったのを今でも鮮明に覚えています。

町の中心部は活気があり、さまざまなお店が道を挟むようにして連なっています。また、大広場や観光客が足を運ぶ大教会もあり、それらの美しさには息を飲むばかりでした。

1545年に作られたヨーロッパ最古の、世界遺産に登録されている植物園もありました。中心部から少し歩いたところには、あのガリレオ・ガリレイが住んでいた家もありました。

飲食店は、やはりパスタとピザを出すお店が多く、どのお店に入ってもとてもおいしかったです。

町に住む多くの人は生徒を含む大学の関係者ですが、東洋人は全くいませんでした。そのため、町中を歩いていると注目されていたように思います。今から思えば、あのようなすばらしい町を訪れることができ、本当に幸せだったと思います。

パドヴァ大学

パドヴァ大学は、1222年に創立され、ヨーロッパで最も古い大学の一つである。ヨーロッパにある他の多くの大学同様、パドヴァ大学も周囲に塀などはなく、大学自体が一つの町を形成しているような感じである。パドヴァ大学は、13の学部、63の学科、3の研究施設、54の図書館、31のセンター、26の学際研究センター、8の学際サービスセンター、6の学際研究・サービスセンターから成る。学生数はおおよそ60,000で、それに対して、2,151の教員、2,162の技術・事務職員がいる。

イタリアのほとんどの大学同様、パドヴァ大学も公立大学である。ボローニャ大学の次にイタリアで最も古い大学である。パドヴァ大学は、イタリアの名門大学で理工系ではイタリア最高峰とされている。しかし、名門であるにも関わらず、驚くべきことに、ほとんどの学科で入学試験が課されていないのである。高校を卒業さえすれば、好きな学部に入学できるのである。しかし、入学試験がないことから予想できるが、留年率も非常に高いのである。おおよそ、半分の学生が二年次へと進めないのである。イタリアで最も人気の高い専攻は工学、とりわけコンピューター工学だそうだ。医学部や法学部よりも人気だと言うので、非常に驚きである。日本と同様、パドヴァ大学の学生の多くは家から大学へと通学をしている。一つの地域にそんなに多くの大学があるわけではないので、ヴェネツィア近辺に住む学生はパドヴァ大学へ通うようだ。

パドヴァ大学には、そこそこ良いカフェテリアがあり、我々も滞在中はそこで昼食を取った。ビュッフェ方式の昼食で、パスタやリゾット、肉料理などから二・三品選べる。味は日本の名門某T京大学の食堂より少し上だったかもしれない。一つ、驚いたのは、セルフサービスのドリンクバーで、水、コーラ、炭酸飲料の他にビールやワインも飲み放題だったことである。

パドヴァ大学にはまた、歴史的な建物・施設が多くある。その中でも特に有名なのは、Boと呼ばれる場所である。Boというのは、現在では、事務室として使用されているが、かつての大学である。Boにはとても有名な像や部屋があり、ガリレオ・ガリレイの教壇や、医学部の解剖劇場などがある。

見学

物理学科学生実験室

物理学科の学生実験で使う部屋を見学させて頂きました。1年生では、運動量保存則などが確認できる、台車の移動を測定する実験や、基礎的な回路の実験をするそうです。日本では高校生の物理の授業でやると思われます。学年が上がるにつれて、東大の物理学科でもやっているような放射線の実験や、その他のより高度な光学的な実験などが行われます。東大で最初の物理基礎実験の課題がヤング率の測定だったことを考えると、イタリアの学生はやはり大学という時期に必死にcatch upするのだと容易に推測されます。

基本的に一つの実験は一つの実験室で行われています。学期ごとに机を移動する物理学科TAのみなさんの苦労が一瞬思い出されました。廊下だけを見ると何の建物だかわかりません。部屋に入って初めて、ここが物理学科であるとわかります。これは、建物は古いままで、部屋の中身だけを改装していく、というパドヴァ大学の伝統が強く感じられるところです。ちなみに物理学科の建物は、「典型的なファシズム時代の様式」だそうです。

物理博物館

図8
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物理学科 "Galileo Galilei"

大学の地下に、主に物理的、工学的に歴史的な実験器具が保存してある博物館があります。ここには有名な、ガルバーニ電流を発生させる装置や、ガリレオの時代に使われていたという天体観測の器具がありました。ここにある装置を使って観測や実験をしていた偉人たちを思うと、「これから物理、ひいては科学の歴史が始まったんだなぁ」と感銘を受けます。写真は先生に説明を受けているところです。説明がないと何に使われたのかわからないようなものがほとんどです。右下にはカメラの元になった器具がおいてあります。

研究室訪問

パドヴァ大学

物理学科 "Galileo Galilei" 物性物理学部門

SIMS(2次イオン質量分析器)の装置を備えた研究室を見学した。SIMS の基本的な考え方は、ビームによって2次イオンを励起し、そのイオンを質量分析することで物質の表面の組成を知るということである。実験の目的は、物質の表面を変えることで、有用な物質を作り出すということである。

また、ルミネッセンスの実験室の見学も行なった。

高エネルギー物理学に於ける計算

最近の高エネルギー物理学実験の一つの特徴は、加速器からのデータを解析するのに、膨大な量の計算が必要とされるということである。したがって、並列計算が必要になる。Padova はこのような計算を行なっている世界のさまざまな研究機関のひとつである。我々が見学した部屋はCPUで埋め尽くされており、CPU が加熱しないように冷却設備が整っていた。

化学科

パドヴァ大学の化学科を訪問してきました。化学科はパドヴァ大学部の理学部の中でも最も古い学部の一つです。博士研究員のGross博士が案内してくれました。

まずはじめに無機合成研究室を見学しましたが、ここではゲルなどの素材を作っており、基礎研究というよりも応用研究で、工学部の研究室のようでした。つづいて、表面化学研究室にてAFM(原子間力顕微鏡)、STM(走査トンネル顕微鏡)、XPS(X線光電子分光)を見学しました。さらに、レーザー分光研究室ではns分解能を持つ分光装置を見せていただきました。最後に、有機合成研究室を見学しました。有機化学の実験室はやはり大きく、有機化学だけの建物がありました。

全体的に、東大のほうが装置に恵まれていると感じましたが、パドヴァ大学でも活発に研究が行われているようです。理学部ではありますが、基礎研究だけでなく応用研究も積極的に行っている印象を受けました。

この研究室ツアーでお世話になった全ての方々にお礼を申し上げます。

生物学科

生物学科では図書館、コンピューター室、学生実習室と分子生物系や海洋生物をあつかういくつかの研究室を見学した。全体の感想としては、日本と全く同じ点、全く違う点が混在しているということであった。

キャンパスというものがないせいか、図書館は学科ごと(建物ごと)にあった。最近は日本と同じようにオンラインでの文献検索が主流になってきており、図書館の利用はだんだん減っているとのことであった。コンピューターが数、質共に不足していること、スペースがなく廊下に装置が置かれていることなど抱えている問題点も同じようなものであった。設備や実習室の風景なども私たちが日ごろ目にしている日本のものととても似ており、学問が世界共通の言語であるということを再認識させられた。

しかし、実験室のセキュリティは日本と比べものにならないほど厳しく、私達が日ごろ扱っているサンプルもこのような厳しい管理が必要なのだということを痛感した。学生が実習で使っている部分と各研究室はきちんと区切られており、研究室のある階にはカードがなければエレベーターも止まらないようになっていた。この管理の厳しさはとても印象深かった。また、その中に彼らの研究への認識の高さを垣間見た気がした。

その後、魚類の精子間競争を研究されている方のお話を聞くことができ、実験についての議論で大いに盛り上がった。実際に魚のいる水槽も見せてもらい、実験の様子にじかに触れることもできた有意義な見学となった。

~Laboratori Nazionali di Legnaro ( LNL )(原子核物理実験施設)~

図10

AURIGA 検出器

図11

LNLにて

AURIGA(重力波検出アンテナ)

滞在3日目にパドヴァにあるLaboratori Nazionali di Legnaro ( LNL ) を訪れて、AURIGA という重力波検出器を見た。

AURIGA は共鳴型の重力波検出器である。それは局所銀河団の範囲までのソースから発生する重力波をとらえるためにつくられた。主要部は円柱形のバー (2.3 ton, 3 meter)であり、それは希釈冷凍機によって0.2 K まで冷却することができるようになっていて、それは多段階式の振り子型のアームによって装置の振動からバーを隔離するような仕組みになっている。重力波が来ると、そのバーが振動する。それは常時変位センサーによってモニターされているが、そのセンサーはコンデンサー型であり、装置の振動の変化を回路を流れる電流の変化にしてしまう。その電流の変化はSQUIDというアンプで増幅して読み出される。

他のラボでの実験

LNL の研究者たちは原子核や素粒子の他のグループたちと共同研究もしている。

私たちはLNLで作成中の wire chamber を見たが、それは CERN で使われるそうだ。

原子核物理学研究室

現在、LNL では4つの加速器が稼働中である。我々が見学したのは TANDEM-XTU である。ファン・ド・グラーフ型の加速器で、電圧は最大15 MV に達し、1 Hを30 MeV/AMU にまで、また197 Auを1.5 MeV/AMU にまで加速する能力を持つ。2次ビームの分離には、磁場を使って(電荷)/(質量)を分離し、更に Wien フィルターを使って粒子を同定するというという標準的な方法が用いられる。我々は又、加速器の制御室にも立ち入らせていただいた。

現在の原子核物理学に於ける最大の難問の一つは、ビームまたは標的に、不安定な原子核を用いて実験を行なうことである。我々の見学した TANDEM-XTUは、このような不安定原子核をビームに用いることができるという長所を持っている。

物質科学研究室

物質科学研究室の主たる目標は、物質科学の知識と技術を粒子検出器に応用することである。例えば、我々が見せていただいた誘電性の薄膜は、検出器に利用されている。この研究室では、物質のさまざまな物理的性質を測定する装置を揃えている。

学際的物理研究室

Legnaro に於ける主たる研究テーマは原子核物理学であるが、学際的分野(化学、生物、医学等)にその知識と技術を応用することも重要なテーマである。その一例として、我々は生物の細胞に放射線の影響を調べる実験装置を見学した。加速器からのビームをスリットを使うことで一つの細胞だけに照射すると、その細胞は損傷を受けるが、その細胞ばかりではなく、周囲の細胞にも害が及ぶ。この実験により、放射線が細胞にどのような影響を及ぼすのか、そしてその影響が細胞から細胞へとどう伝達していくかを理解することができる。

ディスカッション

図12

パドヴァ3日目の夕方、教育制度や大学のカリキュラムについて、現地の学生および先生方とのディスカッションを行いました。我々はこの為、日本で準備をしてきていました。まず初めに酒井先生が東大全体の仕組みについて話し、次にパドヴァ大の生物の先生が生物学科のカリキュラムについて説明し、その後、我々が駒場での2年間や、その後、各学科に進学した後のことなどを話しました。互いにたくさんの質問が出て、白熱したものとなり、予定していたよりも大幅に時間がずれ込んでしまいました。この時点でもう時間はほとんどなく、化学の先生は用事で帰ってしまわれました(後日、彼は化学科についての説明を改めてして下さいました)。物理の先生と学生が一人、物理学科について話しました。ここまでにもうずいぶんと時間を使い、参加者は皆疲れてきてしまい、この後互いに自由に議論する時間が予定されていたのですが、割愛されました。このディスカッションの時間は午前中に設けたほうが良かったかもしれません。しかしそれでも、私たちは互いの大学について知ることができ、そこには当然のことながら、共通点も異なる点もありました。我々はパドヴァ大の留年者や退学者の多さに驚きましたが、それは入学が非常に容易であることに起因しているようです。ディスカッション自体は十分なものでありませんでしたが、これをきっかけにして、この後、私たちは色々なことについて話をすることができました。

学生との交流

図13 図14

このプログラム用に事前に学生ボランティアが集められていた。物理学科のシニョリーニ先生の計らいにより、渡航前からそのうちの数人とメールで連絡を取っていたため、初対面のウェルカムパーティの時点からスムーズに交流を図ることができた。年齢も同じくらいで、学問の話に限らず、映画、音楽、スポーツなどいろいろな話題をした。学問の話や教育に関するディスカッションでは真剣に語りあい、映画や音楽の話になると大いに盛り上がることができた。また、お互いの文化を説明しあったり、質問しあったりと、たくさんのことを教えられた。こんなに遠く、また、まったく異なる環境で育ったにもかかわらず意見を交換し合い、感情を共有できるということに大きな感動を覚えた。

学生さんは皆忙しそうであったが、私たちにたくさん時間を割いてくれ、夕食も数回共に取ることができた。事前にボランティアで集められていた学生さんの友達も交えて、日中のプログラムが終わったあと一緒に学生の集まるバーに行ったり、ピザを食べに行ったりと現地の学生気分になったような気分でとても楽しかった。中でも、ピッツェリアでのフェアウェルパーティーが印象的である。その日はパドヴァでは珍しい大雪で、パーティーのあと広場で雪合戦を楽しんだのである。みんなびしょびしょで、とても寒かったが、知らない人もみんな混ざり合って何時間も一緒に雪合戦をした。そのあとも一緒に大声で歌を歌ったり、さわいだりと陽気で人懐っこいイタリア人の気質に触れたような気がしてとてもうれしかった。

この交流は今回の訪問における最も大きな収穫の一つであるだろう。これからもこの交流の灯を絶やさないようにしていきたい。