ヒッグス粒子発見と日本のプレゼンス

いかに学生・若手研究者を現地に送るか

— 研究紹介 —

物理学専攻教授 浅井祥仁
物理学専攻教授 浅井祥仁

2012年7月「ヒッグス粒子と見られる新粒子が、スイスの欧州合同原子核研究機関(CERN)で発見か」という報道が世界を駆け巡った。ヒッグス粒子はビッグバンの100億分の1秒後に生じ、真空を海のように満たして万物の質量を生み出したとされる。1964年にその存在が予言されて以来、宇宙創世の秘密を解き明かす"神の粒子"と呼ばれ、現在の素粒子物理学で最もホットな研究テーマとなってきた。「ノーベル賞は確実」とも言われる今回の発見は数千人の研究者による合同実験の結果だが、それに大きく貢献したのが浅井祥仁教授率いる東大チームだ。

「ヒッグス粒子の存在によって、なぜ宇宙が急激に大きくなったのか、星や銀河を形作る物質があふれるようになったのか説明できる。ただし今回の実験結果でわかるのは宇宙の4%、残り96%を説明する理論の検証はこれからです」

今後はヒッグス粒子がなぜ、どのようにして真空に満ちたのかが大きなテーマとなる。各国が激しく成果を競い合う中で重要になるのが、若い研究者がどれだけ現地に常駐できるかだ。66カ国から1万人が集まるCERNで働く中心は35歳以下の世代。東大チームは元気な学生・若手研究者20人が常駐するが、その滞在費用をどう捻出するかが頭痛のタネ。文部科学省の科学研究費は5年で期間が切れるため安定した財源とはならず、学生・若手研究者を現地に送り続けられる確実なサポートが必要となっているのだ。

「僕が子どもの頃はビッグバン理論も仮説に過ぎなかった。宇宙論は実験で証明されて初めて自然科学になります。宇宙の根源を解き明かすという人類の夢が現実になろうとしている今、その担い手となる優秀な若手を現地に送り込めるかどうかで、数十年後の自然科学における日本の存在感が決まる。OBの方々に幅広い支援をお願いします」と浅井教授は語る。

写真:大野真人