理学の美学

45億年の時を超えたメッセージは美しい。
その隕石から地球誕生の謎を解読する。

地球惑星科学専攻
准教授 三河内 岳 (みこうち たかし)

研究概要

45億年も前に誕生した隕石が鮮やかな光沢を放ちます。 この美しい隕石を研究しているのが地球惑星科学専攻の三河内岳准教授。 この隕石は、太陽系が誕生した直後にできた天体で、溶けていたマグマが冷えて固まった火成岩です。 「隕石の魅力は、数十億年も過去の情報が保存されていることです。 隕石を分析すると、太陽系ができた頃の環境を知ることができます。 それを知ると地球ができた謎を解くことにもつながるんですよ」と三河内准教授は言います。

隕石を偏光顕微鏡で観察する場合、隕石を極めて薄くスライスして光を通すようにしなければなりません。 その厚さ、わずか0.03mm。 三河内准教授が自ら手作業で削るとは驚きです。 透過する光の複屈折特性や偏光特性の違いによってどんな鉱物が含まれているかわかります。

しかしこの隕石、どうやって入手するのでしょう。 最近話題になった小惑星探査機「はやぶさ」に搭載されたサンプル収納容器に、 小惑星イトカワの微粒子が数多く含まれていたことは、記憶にまだ新しいところです。 隕石は、宇宙に行かなくても、地球に降ってきます。 では、隕石はどこからやってくるのでしょうか。 隕石のような石片をどうやって分析するのでしょうか。 三河内准教授の探求は、今日も隕石の謎に迫ります。

南極で見つかることが多い?!

火星隕石ALH84001の偏光顕微鏡写真。
1996年にNASAの研究者らが生命の痕跡を発見したと報告し話題となった。

隕石には直径数メートルあるような巨大なものから、米粒ほどの小さなものまであります。 たいていの場合、表面は黒くおおわれていますが、きらきらと光った金属のようなものが含まれています。

隕石が数多く発見される場所は南極と言うのは意外。 これまで見つかった隕石の半分以上は南極で見つかったものだと言います。 「南極は、白い氷と雪の世界だから、小さな黒い隕石も発見しやすいという事はありますが、 それ以上にもっと大きな理由があるんです。 南極大陸は氷河でおおわれています。 その氷河はゆっくりと何万年もかけて海に移動しています。 そして海へ落ちる前に山脈があると、そこで堰き止められます。 内陸で氷河上にランダムに降り注いだ隕石は、氷河の移動と共に山脈の裾野に集められ、 数万年分の隕石が集合している場所ができるわけです。」

最初の南極観測隊から10年以上すぎた1969年に昭和基地の近くにある「やまと山脈」 という場所で地質調査をしていた観測隊員が隕石を9個発見しました。 これらの隕石は全て種類の違うものでした。 これを契機にその後、たくさんの隕石が見つかるようになりました。

南極以外ではサハラ砂漠で隕石が見つかることが多いようです。 1日に10個くらい見つかる日もあります。 90年代後半からモロッコにビジネスとしての隕石市場ができているそうです。 三河内准教授らの研究者も隕石を業者から購入することが多いと言います。

分析は、わずか0.2グラムのサンプル作りから。

三河内准教授は鉱物学や結晶学的なアプローチで隕石の分析をおこなっています。 分析するサンプルの大きさは、「0.2~0.3グラム、5mm角もあれば十分」と言います。 含まれている鉱物の成分や結晶構造を分析し、どのような過程で誕生したのかを考えます。 偏光顕微鏡から始まり、SEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)、 EPMA(電子プローブマイクロアナライザ)、X線回折などの手法を用いて分析がおこなわれます。

これらの分析手法を使って組成や結晶構造を解析すると、隕石ができるメカニズムを推測することができます。 例えば、写真に示している隕石は、高熱で溶けたマグマが冷えて固まっていってできますが、 高温からある速度で冷却すると、隕石と似たような鉱物と組織を人工的に作り出すこともできます。 この実験手順や方法から、隕石のできる様子を推測できるというわけです。 45億年前という年数の特定は、隕石に含まれる微量の放射線同位元素の半減期から推定します。

隕石の99.5%は小惑星からやって来た。

これまで隕石は世界中で4~5万個見つかっています。 その99%以上は小惑星から来たと考えられています。 その理由は、望遠鏡で小惑星の反射スペクトルと、 落下してきた隕石を同じ反射スペクトル法で見ると、非常に似ているからです。 「はやぶさ」が持って帰って来た小惑星イトカワの微粒子を調べるとこのことが証明されるはずです。

隕石は流れ星よりもずっと大きな物体です。 流れ星は、彗星の塵が地球の大気圏に入って燃え尽きてしまうものですが、 隕石は小惑星のかけらなので、元々が流れ星よりずっと大きく、燃え尽きず地球に到達するのです。

「隕石が落ちてくる様子をビデオで撮影した映像がたまにありますが、 この落下軌道から算出すると、火星と木星の間にある小惑星に行きつくわけです」(三河内准教授)。

では小惑星以外の星から来た隕石はあるのでしょうか。 月から飛んできたものが100個くらい、火星からも飛んできたものが50個くらいあるようです。 月や火星に小惑星などの天体が衝突し、その衝撃で、月や火星の表面にあった石が宇宙空間に放り出されて、 その後、地球へ飛んできたものです。 1970年代までは計算上、火星から飛び出すほどのエネルギーは生じないと言われていましたが、 非常に強い衝突を受けた場合は、火星の引力を超えて軌道から飛び出し、 それが地球に到達することが解明されています。 このように、小惑星や月、そして火星から来た隕石を調べることで、 太陽系がどのように誕生したのか、そして、いまある惑星や月などは、 どのようにしてできたのかを探ることができます。

地球惑星科学とは、宇宙と地球の謎解きをする、とてもミステリアスな世界なのです。