武田先生への質問と回答 - 第10回理学部公開講演会『時間の科学』

武田先生への質問と回答

Q:動物の細胞の遺伝等学習したいです。どうして異常な動物が産まれるのですか?
A:私たち生物は遺伝子に書き込まれた情報をもとに,一つの受精卵から生き物らしい形に育ちます。遺伝子はいわば私たちを体を作るときの設計図の働きをもつといえるでしょう。この設計図の一部が変化してしまう(遺伝子が変化してしまう)と,異常な動物が生まれてくることがあります。また,遺伝病とよばれる病気を発生することもあります。遺伝子と生き物のかたちや機能の関係を探るのが遺伝学です。
Q:分節周期がゼブラフィッシュ30分,鶏90分,マウス120分とお聞きしましたが,30の倍数ですが,他の動物もそうですか?物理的な(宇宙)の時間(60分)となにか因果関係があるのですか?
A:たしかに,生物が持つリズムには,概日リズムのように,宇宙規模のリズム(ここでは地球の自転周期)と深い関係があるものが知られています。ただ残念なことに,分節周期については,今のところそのような因果関係は知られていません。
Q:細胞がからだをつくり出す過程において実験段階では異常の発生が解明できているとの事ですが,胎児診断やその予防に生かされているということはありますか。
A:基礎研究の結果,胎児診断は原理的には可能になっていると考えられます。ただ,それを実行するかどうかは,倫理的問題から,慎重に議論する必要があるでしょう。
Q:「動物のからだを刻む分節時計」で,30分というリズムは,どこから生まれるのでしょうか?例えば,クォーツのように正確なリズムを生み出すような発振源が細胞のはたらきにあるのでしょうか。
Q:生物の時計になっている物質?は何なのですか。
A:30分というリズムを刻むのは,細胞一つ一つの中にある,発振する物質(タンパク質のひとつで,HER1といいます)です。ここでいう発振とは,HER1の量が30分おきに増えたり減ったりを繰り返すことです。このような発振がおこる仕組みは既に解明されています。鍵となるのは,HER1が自分自身の合成をストップさせる機能を持つということです。これにより,HER1の合成→HER1の蓄積→合成ストップ→HER1の分解→合成を止めるだけのHER1がなくなったら,再び合成開始,というサイクルを繰り返す,つまり発振することができます。
Q:分節時計のサイクルと実際の節の形成との間の物理的なしくみ(つながり)はわかっているのでしょうか。
A:まだ多くが未解明のままです。細胞たちが同調して発振しているだけでは「節」はできません。同調のあとに何が起こるのかについての研究は現在精力的に行われていて,同調の後には細胞たちの発振が作る「波」のようなパターンが出現する,というところまでわかっています(ネオンサインで,電球の点滅で光の波が伝わるように見えるのと似ています)。この「波」が一回打ち寄せるごとに,節がひとつできる,というのが現在有力な仮説です。
Q:ナメクジウオ,ホヤ(幼生)でも同じですか?
A:私たちを含む脊椎動物の祖先であるこれらの動物では,今回お話ししたような分節サイクルが存在している証拠はまだ見つかっていません。規則正しい分節やそれと似た構造を持っていますので,今後時計のような機構が見つかる可能性があります。ちなみに,節足動物の蜘蛛の発生過程では脊椎動物の分節サイクルで使われているタンパク質が尾の場所で振動しているという報告があります。もしかしたら,動物界全体に共通する現象で,一部の動物が進化の過程でこの機構を失ったとも考えられます。
Q:人間等生物が老化(酸化)する仕組みをお教え願いたい。
A:老化に関しては,生物が刻むリズムとは少し観点が異なり,私たちの研究室では研究の対象としておりません。我々がもつゲノムにより寿命が規定されていることは事実ですが,現在のところ詳しいことはわかっていません。老化につきましては,国内外の多くの研究室で精力的に研究が進められています。