海部先生への質問と回答 - 第10回理学部公開講演会『時間の科学』

海部先生への質問と回答

Q:もし木星がここまで巨大にならなかったら,木星と火星の小惑星群は,惑星になっていたのですか。
A:そういうことになるでしょうね。ただ,木星がどれくらいの大きさだったら小惑星帯での惑星形成を妨げることがなかったかについては,木星の成長の速さとも関係するので,単純ではありませんが。
Q:惑星の内部構造については,どのような方法で推定したのかご教示願います。
A:惑星の大きさと重さ(質量)は,それぞれよくわかっています。重さは,惑星を回る衛星や,最近では探査ロケットに及ぼす惑星の重力の作用を計算して,正確に求めることができます。それらをもとにして,自己重力によって生じる惑星内部の圧力の分布や温度についても,かなりの程度推定できます。そこでさまざまな物質の高圧・高温下での性質(物性)の知識を応用して,内部の圧力や温度に応じた惑星の内部構造のモデルを計算し,惑星の大きさ,重さをうまく説明できる内部構造を導き出してゆくのです。
Q:宇宙はどの位の速さで膨張しているのですか? また,宇宙の外には何があるのですか?
A:宇宙は,ある「速さ」で膨張しているのではありません。宇宙は観測する限り,どの方向 も同じように見えますし,膨張している宇宙の「はじ」も,現在まったく見えません。膨張の「中心」もどこにあるかわかりません。そんなものはないのかもしれません。つまり私たちのこの宇宙は広大で,どこも同じように膨張していて,どこから見ても同じように,遠くのものほど速い速度で遠ざかってゆく銀河が見えるだけなのです。この膨張宇宙のなかの二つの地点は,相互の距離に比例した速さで互いに遠ざかっているのですから,宇宙の膨張の速さは,「ある距離離れた銀河どうしが,どんな速さで互いに遠ざかるか」をあらわす比例定数=ハッブル定数Hで表されることになります。ハッブル定数は,さまざまな銀河の距離と遠ざかる速さを観測して求められますが,最近では宇宙背景放射の揺らぎを測定したWMAP衛星の観測データも用いて,H=71±4 km/s/Mpcという数値がひろく使われるようになりました。つまり,100万パーセク(320万光年)遠ざかるごとに,相互に遠ざかる速さが71キロメートル毎秒ずつ大きくなるのです。これが,「宇宙が膨張している速さ」です。これまで述べてきたことからわかるように,「宇宙の外」はまったく見えていませんから,そこに何があるのか,どんな世界なのかはわかりません。いずれ観測と理論が進めばわかってくる可能性もないわけではありませんが,それには新しい物理学が必要ですし,仮にわかったとしても,いま私たちが知っている4次元時空とはおよそ違った世界である可能性が大きいでしょう。
Q:2012年地球がフォトンベルトに突入といわれる情報がありますが,具体的な詳細を知りたいと思っています。
A:フォトン・ベルトは,科学的な論文・報告にもとづくものではない,大変あいまいな話です。元ネタは1981年にオーストラリアのUFO関係の雑誌らしく,地球がプレアデス星団の星のまわりを2万6千年の周期でまわっていて,闇と光子(フォトン)の領域を周期的に通過し,地球にさまざまな影響・災厄が現れるというもののようですね。昔ハーシェルが見つけていたとか,人工衛星で観測した,NASAが観測したが隠している,といった枝葉もついていますが,どれも根拠は見当たりません。そもそも地球がプレアデス星団のまわりを回るというのはまったくあり得ないことで,地球は太陽とともに銀河系の中心のまわりをおよそ2億年で回っているのです。たぶん,地球の自転軸の方向がこまの味噌すり運動のようにずれてゆき,2万6千年で天球を一巡りするという,天文学で歳差という現象と混同したのでしょうか。また,光子(フォトン)が集まってベルト状になるというのも,物理学的にありえない話です。 「ノストラダムスの終末予言」や「惑星直列」と同じといってよいでしょう。いかにも信用できそうに枝葉をつけて危機感をふりまくのは,いわゆる似非(えせ)科学の常套手段です。心配したりまじめに取り合うと,バカを見ます。カルト宗教や,UFO宇宙人説などをふりまく人々,それに乗った一部ジャーナリズムが売りまわっているようですが,ウソを承知で金を稼ぐ点では,詐欺の一種ですね。
Q:海王星や木星は着地は無理ですよね。行けることはないのでしょうか。
A:木星はもちろん,海王星も大気がとても厚いため,無人探査機でもその巨大な大気圧に耐えて硬い表面に着地することは,難しいでしょう。特に木星の場合は大気の下は何万キロメートルもの液体水素の海なで,硬い地面ははるかその奥です。その代わり,木星の衛星であるエウロパや,海王星の衛星トリトンに着地して,面白い氷地殻の動きやアンモニアの火山を調べたりする日が来るかもしれません。