上田正仁教授2008年度仁科記念賞受賞

清水 富士夫(東京大学名誉教授)

上田正仁教授

仁科記念賞は仁科芳雄博士の原子物理学に関する業績と本邦における基礎物理研究の構築に対する大きな貢献を記念して設立された仁科記念財団の主要な事業の一つとして1955年に設立され、本邦における最も歴史と権威ある物理学に関する賞です。このたび物理学教室の上田正仁教授に授与されることが決まりました。

上田氏は1988年東京大学大学院物理学専攻修士課程を修了後、日本電信電話株式会社基礎研究所の研究員に就任、その後、広島大学、東京工業大学を歴任後、本年3月から本学物理学教室教授に就任されています。

上田氏は量子光学の分野で立派な業績を上げてきた理論物理研究者ですが、1994年に原子のボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)が実現した際に、その多彩な物理学上の可能性に注目していち早く理論研究に取り組み多数の成果を上げてきました。そのなかで、今回の受賞対象となったのが引力相互作用をしているボーズ粒子が作るBECのダイナミクスの研究です。引力相互作用をしている粒子からなる一様な気体は、温度を下げてゆくと引力によって収縮してしまうため、BECを起こさないことが理論的に知られていました。原子のBECは外部ポテンシャルで小さな空間に閉じこめられた有限個の粒子の系が起こす現象で、このような系では、量子学的揺らぎに起因する零点圧力のために粒子数が小さいときは引力と釣り合って安定なBECができ、大きくなると引力が勝って崩壊します。この崩壊過程は激しい変化を伴い、また、BECの種類によって特徴的な振る舞いを示すことを理論的に示し、実験との定量的な比較によって引力系BEC物理の本質の解明に成功しました。

上田氏は、現在、科学技術振興機構ERATOプロジェクトの代表者として、BEC実験研究者を主体としたチームを結成し、弱体であった本邦におけるBEC研究の推進に努力されています。氏の物理研究に対する真摯な取り組みとともに、研究コミュニティー全体の発展を追求する姿勢は敬服に値します。

今回の受賞を心からお祝いするとともに、今後も本邦における量子凝縮体に関する研究に大きな貢献を続けられることを期待したいと思います。

受賞タイトル:引力相互作用する原子気体のボース・アインシュタイン凝縮の理論的研究